オオイリ商店道中記・南部から西部へ

南部に属する学園都市から西部にある街までのルートは主に二つ。

一つ目は一度王都あたりまで北上しそのまま西に移動。

メリットは治安が良い事でデメリットは時間がかかる事。

もう一つは直接西部に向かう道、とはいっても直線距離で行けるというのは無いらしく北西に逸れた道から海岸線に出てそこから海沿いに向かっていくというルートらしい。

メリットは王都周りより早い、デメリットは治安があまりよくない。

良くないとは言っても王都廻りに比べたらなだけで山賊が出たとかそういう話はほとんど無いらしい。


この二つの提案で俺は海沿いの道を選択した。

護衛もいるし治安の悪さも言うほどではないということであったので。

実際に道中は特に問題なく馬車に揺られていた。

日が沈む前までは…


日暮れ後、街道から少し離れた場所に精霊アールヴの宿を使って野営地をパパっと整備し、さっそく晩飯の用意をする。

常夜灯や排ガスやらが夜空の輝きを邪魔しないこの世界は星の瞬きがとても素晴らしいので寝るとき以外は基本的に露天状態だ。

リュックからポトフの入った鍋と焼いた肉とパンを取り出してそれぞれの皿に入れていく。

予定日数分以上の料理をマキアスに作ってもらい出来立てをリュックに入れておいたからいつでもどこでも美味しい料理が堪能できる。


「いやぁ、主がいると野宿の辛さを忘れちゃうね。」

「メイは主様がいない状態での野宿をした事が無いのですがやはり違うのですか?」


そりゃぁもう、と野宿の辛さを語るヴィオラの話を焚火を囲んで聞きながら晩飯を味わう。

今日はこれで終わりかなとなんとなく思っていたらいつの間にかヴィオラもメイちゃんも完全武装で横にいた。


「いやはや、学園都市に少し離れたこんな所でアンデッドに襲われるなんて運がないね。」


「主様はあの青い炎を出して警戒しておいてください。」


火の明るさに釣られてか街道を挟んだ先にある林からアンデッド達がやってきた。

しかも、スケルトン白骨体ではなくグール腐肉付きの類なので嫌なにおいがこっちまで流れてくる。


「汚いのは切りたくないから魔法で燃やしていくよ。メイは林以外からも出てこないか警戒していて。」


ヴィオラがそう言うや否や腕を上げると焚火の炎が激しく燃え上がり腕を下すと炎がぼんやりとした矢の形となって次々と林から出てきたグールに突き刺さりその体を燃やしていく。


「やっぱり主の近くだと妖精たちが張り切っちゃうから力を抑えて精霊魔法を使わないといけないね。」


戦闘中とは思えない気楽さで笑いながらも次々と炎の矢は敵に飛んで行く。

これは楽勝かなと思っていたがヴィオラとメイちゃんは先ほどよりも林を注視している。

俺も林をよく見てみると何か光り輝く線が瞬きながらこちらに近づいてきているようだ。


『炎の霊よ 眼前より迫る脅威を射抜きたまえ』


先ほどまでは詠唱をしてなかったヴィオラが詠唱を行うと先ほどまではぼんやりとした矢の形だった炎がしっかりとした形を象っており林から出てきた何かが出てきた瞬間に放たれた。

グールを燃やしていた炎とは段違いの火柱が上がったがその中から先ほどの何かが飛び出してきた。

そして、月明かりに照らされたシルエットを見て俺もようやくその正体が分かった。

林の中からやってきたのは白銀の鎧に身を包む騎兵であった。

それも、首のない…


「デュラハン…」


そう呟いたのは誰かはわからなかったが先ほどの気楽な空気は消え失せヴィオラは双剣を構え、メイちゃんの傀儡は薙刀を構え対峙していた。

どちらがどう動くのかがわからない状況で先に行動を起こしたのは相手だった。


「貴殿が御使いのイサナ店長だな。」


「…え!?あ、はい。オオイリ商店のイサナは自分の事ですが。」


「そうか、そうか。その青い炎を見てそうだとは思っていたが間違ってはいては困るからな。我は冥府の王に仕える騎士である。冥王様の命により貴殿のもとに参った。まずはこれを読んで貰いたい。」


え?え?どういう事?

いまだに状況が追い付いていないままデュラハンから渡された手紙の封を解いて読む。

内容は俺の持ってる【冥界の火】の調査をさせてほしいと言うことだった。

それにしてもこの手紙受け取った方が驚くほど丁寧に書かれてるんだけど…

季節の挨拶から始まって冥界の火を調べさせてほしいとすごく丁寧に書かれてるし最後にはちゃんと印まで押されてる。

額に飾っておいたらダメかな。


「状況は分かりました。ただ、調査といってもどうするんですか?」


「ああ、それは簡単だ。タブレットで撮るだけだからな。」


デュラハンは自分の頭を馬の背に乗せるとどこからか水晶っぽいもので作られた板をとりだした。

それを俺に向けるとパシャリとどこか聞きなれた音がした。


「うむ、なるほどな…こういったマナ波形になるのか。すまないイサナ殿次は少し角度を変えてくれ。」


その後も言われるがままのに冥界の火がついている松明を動かして撮影が続いた。

冥界の火の撮影が終わるとついでだから俺のチートの一つ【冥王の加護】も撮影することを提案した。

おそらく対アンデッドの防衛能力で俺がアンデッドに襲われると、冥界の火が付いた松明を持っている老婆、二又の槍を持っている女性、ナイフを持っている少女の三人一組のメイド達で影から飛び出てきてくれる。

過去に塩の祠やマキアスの元となっているスチュアート邸に住み着いていた怨霊レイスから守ってくれた心強いチートである。

しばらくしたら撮り終えたと教えてくれたのでアップロードを兼ねてみんなで休憩。

前から思ってたけど神界側の技術力半端無いな。

科学技術だけでも元の世界を凌駕してるわ。


「デュラハンさん。待ってる間にお酒でも出しましょうか?」


「いや、結構。気持ちはありがたいがこう見えてもアンデッド。匂いは分かっても味は分からぬし腹が満たされることはないのだ。」


「そうですか。香りでよければルージュ・ビーの蜜蝋とかいかがですか?良い香りですよ。」


「ほう…ルージュ・ビーの。我々デュラハンの娯楽といえば香りを楽しむぐらいでな。香りには少々煩いぞ。」


「それは手厳しいですな。どうぞルージュ・ビーの蜜蝋です。」


「ほう…これは良き香りだ。ほのかに甘い花の匂いがするがそれが互いに喧嘩せず調和している。それに何かが満たされていくようだ…」


デュラハンはすこしリラックスしていたがはっとした様子でタブレットを使って自撮りをするとすぐに馬に乗った。


「急用ができたので失礼する。この恩は必ず返す!」


それだけ言うと街道を猛スピードで走っていった。


出発初日だっていうのになかなか強烈な夜になったな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神魔一斉在庫処分 神様の逸品お売りします。 マクガフィン @McGuffin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ