第5章 俺たちゃ、自由な冒険者
出立までのあれそれ
学園都市祭も終わり、宰相夫人であるカタリーナ様に
…大量の武具の在庫を残して。
「いやぁ、思ったより売れ残ったね。」
「メイもたくさん売りましたが全く減りませんでした。」
「売れ残ったというか売ったら売った分在庫が増えるってどういう事だよ!」
実際にこの学園都市祭で大量の武具や荒地の特産品は飛ぶように売れた。
だが、それが逆にドワーフたちの職人魂に火をつけた。
ホテル・マキアスの片隅に隠されたように作られた作業場。
本来はマキアスの備品などを修理するように準備したのだが、気づけばミスリルを加工できる程の特別な炉が配置され、木工台や石工場も準備されており、とりあえずここにこれば一通り作業ができるように設計されていた。
しかも、驚くべきことにこの作業場。
見た目と中身がまったく一致していないのである。
どういう事かというと見た目は見た目こそ小さな小屋であるが中に入ってみるとドワーフが数百人入って作業もできそうなぐらいの余裕があるし、部屋につけられた設備を複製もできる。
この世界に慣れたと思ってはいたのだが初めて見た時はさすがに思考が止まった。
どうも部屋の大きさを変えたり設備を複製できるのは屋敷の精霊と化したホテル・マキアスの力らしい。
もともと長い年月が経っていたのである程度の魔力とか霊力とかそういうものを宿していたのがリフォームの際に神界産の素材を大量に使ったことでかなりパワーアップし、その結果このような摩訶不思議空間を作れるようになったらしい。
とはいえ、いろいろ制限があるようで建物の内部は広げることはできても外観のサイズは変えることができないらしいし、複製できる設備も建造物に固定されていないとだめらしい、簡単に言うと壁に固定されたり埋め込められた炉は複製できてもテーブルのように持ち運びできるものは複製できないらしい。
他にも音や振動を隣の部屋や外に出さないようなことも出来るので俺が増え続ける武具に気付かなかった原因でもあった。
要するに店に並べば売れると理解したドワーフが作業場に殺到。
マキアスは彼らが作業しやすい環境を整え、しかも周りには迷惑が掛からない配慮も行う素晴らしき心配り。
俺も忙しくて全体を見れていなかった事もあり売れた瞬間に新たな品物が補充されていったので在庫が減るどころか増えていってたのだ。
俺がそれに気づいたのは学園都市祭が終わってから。
売上を計算していたらあきらかに在庫と合ってなかったので荒地に帰る前にガンテツに聞いてみたらあっけなく事の顛末を教えてくれたのだった。
そこでこのあまりに余った武具を売り払うかどうすればいいか俺とヴィオラとメイちゃんで話し合った結果、公国の西部に行くのはどうかという話になった。
振り返りではあるがこの国、公国の首都を中心に見た際に北部は気温が暑く北に行けば行くほど木々が少なくなり岩山が多く、荒れた土地となっていく。
農業は厳しい土地ではあるが逆に建材としての石材などが特産品であり、学園都市から伸びている石畳の道はこの北部を目指している。
そして公国とリザード族たちが住む荒地の間には入ってくるものを拒むような長大な壁のような岩山がありそこをくり抜いて作られたのがガンドラダ要塞になる。
あの岩壁に刻まれた彫刻は凄かったなぁ…
次に東部だがここは北部と打って変わり樹海と言っても差し支えない大森林に接している土地になる。
公国の開拓村も東部から南部方面にかけてが多く安定した気候に大小様々な川が走っておりこの国の一大生産拠点になっている。
ヴィオラから聞いた話だがこの大森林を進んでいくとエルフたちの里があるらしい。
そんな森を開拓していいのかと聞いたら目立つ場所に進入禁止の印をちゃんと出しているのでいるので問題ないらしい。
とはいっても開拓民はまだその近くに入植すら出来て無いらしい。
余談にはなるがこの世界のエルフは森に引きこもるべしみたいな教えは無いらしく割と自由にあっちこっちにいるらしい。
ただ、公国とその隣の王国での諍いに手を出した過去があるので一応姿は隠しているとの事だった。
300年前も昔のことに気を使ってるってのはなんというか時間のとらえ方がちがうんだなとしみじみ思う。
さて、次に南部だがここは割と何もないというのが公国の考えらしい。
というのも南部は隣国の王国と一番接している地域であり係争地になるかららしい。
今、俺たちがいるこの学園都市も元は対王国用に作られた城塞都市だったのでかなり強固な城壁に囲まれている。
ただ、城塞都市が作られた時期よりも国境線が南に移動したこともあってこの街は城塞都市から学園都市に方針転換したそうだ。
とはいえ仮想敵国である王国に睨みを効かせるのは必要なことなので見習いではあるが騎士や魔法使いといった戦力を駐留し続ける必要があるのも確からしい。
政治的な問題は世界が変わってもややこしいようだ。
最後に西部だがこの国唯一の海沿いの地方であり貿易都市がある地域でもあるらしい。
海外貿易というのは世界が変わっても非常に重要なものだが、海にも多くの魔物がいるこの世界において貿易できる相手は多くない。
基本的に沿岸航海になるので貿易相手は隣国の王国とその隣のノエライト聖国、そして唯一遠洋航海に成功している神武皇国の3つだけになる。
さらに西部にはこの国唯一のダンジョンがある地域でもあるらしく冒険者があつまる地域としても有名らしい。
ダンジョンに冒険者と聞いてテンションが上がったがこの国では冒険者というのはそれほど花形の職業ではないらしい。
理由としてはダンジョンが少ないことと治安が安定している事が大きな要因らしい。
ダンジョンというのは魔物が湧き出す恐ろしい場所ではあるがそれと同時に様々は資源を生み出す場所としても見られている。
ダンジョンで一攫千金を狙えるのは確からしいのだがそこにたどり着くまでには相応の技能や技術に知識が必要で一発逆転のような一攫千金を狙わなくても安定したいい稼ぎを得られるらしい。
また、個人の稼ぎとしては問題はなくとも産業として発展させるのが難しい程度のダンジョン資源しか取れてないのが現状らしい。
また、治安の良さが冒険者を育てない要因というのは冒険者のメインはダンジョンでの稼ぎだが副業として商人の護衛といった事もする。
ただ、西部から公国の首都までの道は交易品が運ばれる重要な道であるのは皆わかっているので地方の貴族だけでなく王家も重点的に守っている事もありわざわざ護衛を頼む必要も無いほど安全らしい。
ちなみに、他の地域で護衛を雇うときは冒険者ではなく傭兵が一般的らしい。
どうりであんまり冒険者を見かけなかった訳だ。
うちはヴィオラとメイちゃんという専属の護衛がもともといたから傭兵も雇わなかったからより馴染みがなかったんだよな。
とはいえ武装している人員は西部が多いのは確かなので次は西部に向かうことにする。
皇国に近いのでもしかしたらメイちゃんの事を知っている人もいるかもしれないからな。
ただ、懸念点が無いわけではない。
「商人ギルド離反者に海賊問題ねぇ…」
「ああ、我が国は現状海戦をメインに行う軍が少ない。海賊も常に海の上にいるわけではないから陸に上がったところを捕縛して対処していたからな。だが、今暴れている海賊達の上陸拠点が分かっておらんのだ。そんな海賊を支援しているのがギルド離反者たちだという噂もある。」
西部に向かう話をレディアにすると西部が荒れているという話をしてくれた。
軽くヴィオラから話は聞いていたがどうやらヴィオラが知っていた事以上に問題は深刻なようだ。
「俺たちは冒険者をメインに売るから海に近づく気はないから大丈夫だよ。っていうのはさすがに楽観的すぎるか?」
「…何とも言えんな。イサナがすごい武具を売っているという噂が広まれば奴らも陸に上がってくる可能性もあるし、捕まるのを恐れて上がってこない可能性もある。とはいえお前は西部に行きたいのであろう?」
「それはその通りだ。俺は行商人だからな。いろんな土地に行って品を売って仕入れてまた売るのが仕事だよ。」
「お前のような行商人が他にいなくて良かったわ。他にもいたら我が国でも大店の商人たちすら廃業してしまうだろうからな。とりあえず西部に行くのは少し待て。行くなとは言わんから根回しだけは行わせろ。数日で済むから済んだら行ってくるがいい。」
「ありがとうレディア。お前には助けられてばっかりだよ。」
「気にするな、余も相応に助けられている。西部の商人はあくどいのが多い。というよりも利益以外考えないような奴らのような連中のほうがこの世界では一般的だ。気を付けて行って来いよ。」
この会話から数日後。
俺たち、オオイリ商店の3人は学園都市を後にした。
目指すは西部。
貿易と冒険者達の街だ!
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