第3話
俺はまた例の浜辺に戻って来ていた。
目の前には渚にそっくりな女性が佇んでいた。
「母ちゃん」
俺はその女性に呼びかけた。
「思い出したようだね、坊や」
その女性は…母はクスリと笑った。
「だから、坊やはやめてくれ。俺は正真正銘80過ぎの爺だよ。母ちゃんがこっちの世界に来てからもう70年以上、経つんだ。ガキだった俺も爺になるさ」
「でも、私の前では‘小さな坊や’でいておくれよ」
「それもそうだな。奈美子や渚を迎えに行くまで、母ちゃんに甘えるとするか」
母にそう答えると、フッと体が軽くなり、母が死んだ当時の幼い少年の姿に戻っていた。
「それじゃ、行こうよ。母ちゃん。話したい事がいっぱいあるんだ」
「私もお前の話を聞きたくて、ずっと待っていたんだよ」
僕は母と連れ立って、歩き出した。
永遠に続く漣の音を聞きながら。
コップの中の漣 ひよく @hiyokuhiyoku
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