第9話 この瞬間から……

その言葉が俺の耳に入り込んだとき、予想を越える、驚きが身体中に鳥肌として響き渡った。


「ダリー、お前はこれから、ヘルの用心棒として、現世に生き返ってもらう」


様々な、理解不能な単語が俺の脳をオーバーヒートさせていく。


「どういうことだよ!生き返るのは未だしも、ヘルの用心棒としてって、ワケわからねーよ!」


そうだ、俺は単なる学生、その上、他の神々から狙われているヘルを守るなんて、許容範囲を越えているぞ!


「わぁはははは!!まさにテンプレな焦りかただな!ダリー」


何をのんきなのことを、今はそんなこと言っている場合じゃないだろ!


「まぁ、まぁ、焦らんなって、別に生身のお前で神からヘルを、少女を守れといってないんだから」


何を言っているんだ、おっさんは、ボケたか?


「ボケてないわ!」


あ、やっぱり聞こえているんだな。


「簡単に説明すると、お前中にヘルを住まわせる、そして、ヘルによる神のご加護を使って、ヘルを守るのだよ」


やはり、何を言っているのかわからない、なんか、大丈夫みたいな雰囲気出してるけど心配でしかない。

俺が、暗い感情を漏れ出していると、俺の袖をヘルはつかむ。

それに反応して、ヘルの方へ、目線を下ろすと、ヘルもこちらをガン見していた。

え、なに、こ、怖いんですけど。


「ダリーよ、お前にしかヘルを守ることができないとワシは思っている、後はお前次第だ、お前がヘルを守りたいと思うのなら、話を続ける、別に怖かったら逃げてもよい、お前をちゃんと生き返らせるし、この記憶をも消して、あと残りの無いようにだってしてやる、これは強制じゃない、ダリーお前に選択権があるのじゃ」


俺は、ヘルを守りたいと………


「もう一度聞く、お前は、ヘルを、少女を守りたいか、手放すか?どっちだ!」


俺はヘルを守りたいと思うのなら………

焦りに焦って、言葉さえも訳がわからなくなってくる。悩みのせいか、頭がくらくらしてきた。

そんな気が参っている最中でも俺の袖をヘルは離さなかった。

あれ、この状況どこかで………

その瞬間、俺はあの頃を思い出す。

親を無くし、家も何もない俺を引き取ったおっさんの姿を、そのおっさんの服にしがみつく幼少期の俺の無力で怯えた姿を。ヘルもそんな気持ちなのだろう。

おっさんは言っていた、ヘルを助けられるのは、俺しかいないって。それじゃ俺が助けなきゃ、誰がヘルを助けれるのかと、俺は考える。

俺を助けたおっさんのように、今度は俺がヘルを………

そう、俺がヘルを助けられるなら、この気持ちをよく知る俺が助けられるなら、俺は……


「ヘルを助けたい!」


そう決意を口から放った瞬間、おっさんはこれまでにない大声で盛大に笑った。

ヘルを見ると、涙目でこちらをうかがっていた。

この瞬間から、いや前から決まっていたのだろう、これから始まろうとしている、俺の過酷で、前代未聞な物語が、この瞬間から。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る