第2話 一歩目の大切さ
「特別という名の束縛、普通という名の自由」
親無しの俺、ミリオン・ダリーの育て親とよぶべきか、子供の頃からお世話になった施設のおっさんが、よく言っていた言葉。
おっさんが死んで、施設も無くなった今でも忘れられない言葉、どうやら脳みそにぎっしりと張り付いているようだ。
特別では、回りが邪魔をして、自由に飛べない、そんな意味を付け加えていた。
十年前、八歳だった俺には、その言葉が全く理解できなかった。
しかし、今の俺はよく理解できる。
特別の名を授かった、今の俺なら。
第一ウェルサレム魔法学園。
ここは、将来を担うであろう若者達が魔法や武術を学ぶ場である。
ここで優れた成績を取ったものは、卒業後には貴族や兵士になれることもある。
そう、将来が約束される所、それがこの学園の名が大きい理由である。
そして、俺、ミリオン・ダリーは第86期生としてこの学園の門を潜ることになった。
どうして単なる農民の俺がここに入ることになったのかというと、全て、ある男の仕業である。
リリック・クローズ。こいつは俺が親を亡くした頃からの付き合いで、施設の館長兼、俺の育て親である。
そして、リリックが亡くなったあと、行き場を無くした俺の前に現れたのが、この学園への入学招待状だった。
リリックの仕業だと知った俺は、しぶしぶその話を受けることにした。
普通なら俺みたいな単なる農民があんな有名学園に入るのはあり得ない話だ。
リリックは、何を考えて俺をそこへ行かせようとしているのか全く検討もつかない。
もしかすると、俺には何か凄い力が…、なんて考えてみるが、ムダムダ。
だが、これはもしかした、チャンスかもしれない、いや、一世一代の大チャンスだ。
ここで良い成績を出して、目立って目立って、目立ちまくったら、もしかすると農民から、貴族や兵士になれるかもしれない。
これは親を亡くし、人使いの荒いおっさんに育てられた、可哀想な男の子に、神が与えた幸福の試練なのかもしれない!
あ、神っていないんだった。
それはそうと、今はそれどころじゃない。
遅刻、遅刻、遅刻、遅刻、遅刻だ!
残り時間はあとわずか、投稿初日に遅刻はいけない、本当にいけない!
学園が見えてきた、巨大な門の向こうに見える大きな建物、いや、お城のようにも見える、この広大な敷地が学園が所有する土地とは思えない。いや、広すぎだろ!
俺はおもいっきり門をくぐった。
門を潜る初めの一歩目には様々な思いを込めるものだと思うが、そんなの関係ない!
だけど、なんか勿体ない気もする。
だが、俺は遅刻したくない!
そして、門を勢いよく潜ったとたん、俺の姿は光に包まれた。
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