◆館長とわたし◆
「コレクションを勝手に消してしまうなんていただけないね」
嗜めてはいるものの口調から怒気は感じられない。わたしがこうするであろうことは分かっていたはずだ。
「言いましたよね。死者の魂の展示だなんて趣味が悪いって。わたしはここのコレクションを解放するためにここで働いているんです」
意識して強い口調で宣言する。館長は本当に愉快そうに笑った。
「知っているよ。君がここのコレクションを良く思っていないことは。――実に純粋で眩しい」
「馬鹿にしないで下さい」
「馬鹿になどしていないよ。私には君が必要だからね。私は死者の魂に形を与えることができるが、何故その形になったのか、その魂がもともと何だったのか分からない」
館長がゆっくりと歩き出し、こちらに向かってくる。わたしは動かない。目の前までやって来ると、10cm以上ある身長差に睨みあげるようになる。
「君は魂の救済の為にその記録を読み解けばいい。私はそれを研究に利用する。魂が色付けば、君の勝ちだ」
「――っ」
そう、始めは躍起になって魂の記録を読み解いてなんとかしようとした。こんなところに縛られ、研究の対象になるなんてあんまりだと思ったからだ。しかし、記録を読み解いたところで変わることは少ない。わたしに出来ることなどほとんどないに等しかった。結局、館長の研究材料になってしまうことから、能力を使うことに慎重になった。
――死者の魂を救いたい。見世物にするなんて生きてきた人たちへの冒涜だ。
想いは募るばかりで結果が出ず、コレクションは増え続けている。
「今回は君の勝ちではないか。私はあの絵本が何故、絵本の形を取ったのか分かって嬉しいよ。母の子供への愛情というものか。実に興味深い」
「……わたしは、ここのコレクションをすべて解放してみせます」
「ふふ。頑張ってくれたまえ」
このミュージアムに連れてこられてから半年。わたしは決意を新たに館長に鋭い視線を向けた。長い戦いになりそうだ。
―完―
No color Museum 三の木 @sannoki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます