◆不思議なコレクション◆


 『No color Museum』。名前の通り展示されているコレクションに色がない。基本は白か、限りなく白に近いクリーム色。凹凸があるものに関しては影でその形が分かる程度だ。だから、ショーケースの中はコレクションが見やすいように黒い布が一面に敷いてある。


 コレクションの種類も様々で絵画やアンティークがあれば一方で掛け軸や壺、刀がある。本やノート、万年筆といった文房具が展示されているスペースもあるし、パソコンやカメラといった電化製品まである。まさに雑多だ。一体何のミュージアムか分かったものではない。


「ここにあるコレクションは、すべて私が収集したものだ」


 読んでいた本を閉じ、テーブルの上に置く。コレクションのことになると真剣になる。分かりやすい人だ。


「何故動き出すのか。その問いの答えは簡単だ。ここにあるコレクションはかつて生きていたものだからだ」

「え?」


 館長の言葉に貴和子が表情を凍りつかせる。己も死んでいる身として何か思うところもあるのだろう。


「貴和子君と言ったね。出来ることなら君のこともコレクションにしたいところだが、人の形を取ってしまっているのがいただけない」

「はい?」


 訳が分からくて当然だ。館長の説明は自己満足的なところがある。よって話に割って入ることにした。


「館長は死んでしまって彷徨う魂に形を与える能力を持っているの。ただ、すでに人型であったり形を持った魂にはそれができない。形を失った魂、所謂、人魂なんかがこの能力の対象になるの」

「死んで間もないと生前の姿を維持できるが、時間が経てばそうはいかない。生前の姿を維持するにはエネルギーがいるのだよ。私は形を失くした魂に形を与え、ここで展示している」


 わたしと館長の説明を聞いて貴和子の表情が青くなる。いずれ自分も人の形を維持できなくなると考えたのだろうか。


「あなたはすでに双葉高等学校に保護されたから、姿を維持できなくなることはないわ。安心して」

「……いえ」


 貴和子は俯いてしまった。どうやら不安に感じていることとは違うことらしい。


「では、ここにある展示品は、すべて元は生きていたものなんですね」

「ああそうだ。そこに色がない理由もあると私は考えている。生前の未練、成仏できない何かが彼、彼女らにはあった。故に形を与えても色がない不完全な状態になるのだ。その証拠にコレクションは色がつくと消えてしまうのだよ」


館長は口元にだけ笑みを浮かべる。


「考えている、ということは確かではないんですね?」

「死者の魂の研究は前例がない。なかなか進まないのだよ」


 進まないとしながらも館長は楽しそうだ。本当に研究には熱心だ。


「そうですか」


 貴和子はようやく顔を上げた。そして、徐に椅子から立ち上がる。


「今日はもう帰ります。いろいろお話していただきありがとうございました」


 軽く会釈をすると、貴和子は出口と書かれた案内板に従って歩き出す。慌てて後を追う。見送りくらいしなければ。


 外に出ると、辺りは薄暗くなっていた。腕時計を見ると18時を指している。


「帰り道分かる? 幽霊専用の寮よね。案内しようか?」

「最悪空から探します」

「そう」


 幽霊にしかできない道の探し方だ。それに、急がなくても今の時間なら寮の門限にも間に合うだろう。


「……また来ます」

「――いつでもどうぞ」


 あまりこのミュージアムにいい印象を抱いているようには見えないが、お客様を拒む理由はない。それに、双葉高等学校の生徒はミュージアムの数少ないお客様だ。学校から料金も支払われるのでありがたい。


「平日は10時から17時半まで。休日は10時から19時までよ。私は平日学校終わってから来ていて、休日は基本的に1日いるわ。毎週水曜日がお休みよ」

「分かりました。……またお話し聞かせてください。何故、あなたがここで働いているのか、とか」

「そのうちね」


 最後の質問をはぐらかし帰宅を勧める。貴和子は大人しく帰っていった。



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