第5話

 ノアが守護する【ノストゥの森】では、一つだけ小さな集落が存在した。

 そこは、この森に国境が隣接している【ドラゴニア帝国】と【アルド王国】が遥か昔、森を開拓するために人を送り込んだことが始まりだった。

 とはいえ、森には守護獣であるノアを始め、他にも魔物が多く生息しており、開拓は思うように進展しなかった。

 さらに、二つの国境に隣接していることから、その森の資源を巡って両国は争っていたのだ。

 しかし、どれだけ時間をかけても開拓が進展しないことと、元々王都や帝都から遠く離れた辺境の地であることから、次第に両国とも【ノストゥの森】への関心は薄れ、最終的には今の集落が一つ出来上がるだけで終わっていた。

 その集落では、両国の祖先をもつ人々が暮らしており、今となってはどちらの国に所属しているのかすら分からなくなっていた。

 だが、それでも税は納めなければならず、しかも両国から税の徴収が来るため、常に集落は厳しい生活を強いられていた。

 その上、辺境であることからも国の巡視が通ることもなく、治安もよくないため、土地を捨て、新たな場所に移動するのも命がけとなっていた。

 そんな集落で、一人の少女が長老と激しく言い争っていた。

 その少女は、燃えるような赤い髪と同じく赤い瞳を持ち、気の強そうな目を長老へと向けている。


「だーかーらー! 私が冒険者に登録して、有名になればこの場所も潤うし、何より冒険者の支部を建てることができるのよ!? そうすれば、皆安全に暮らせるじゃない! なんでそれが分からないのよ!?」

「お主こそ何も分かっておらん! 冒険者がどれだけ危険な仕事なのか知っているのか!? この集落が助かるほど有名になるなんて夢のまた夢じゃ! 現実を見なさい!」

「現実? そんなものを見続けてるからいつまで経ってもこの地から動けないんでしょ!? 何だかんだと理由をつけて、動きたくないからここにいるんじゃない! 私はこんな場所で一生を終えるなんて嫌よ! いい? そこまで言うんならもうこの場所のことなんて知らないわ。ただ、私が旅に出たいから旅に出るの!」

「エルティ、ワシは許さんぞ! 絶対に行かせはせんからな!」


 エルティと呼ばれた少女は、何を言っても長老が聞く耳を持たないと知り、勢いよく長老宅から飛び出した。


「なんで分かってくれないのよ……このままだと搾取され続けるだけじゃない……」


 エルティは、この集落で生まれ、育ってきた。

 だが、エルティが幼い頃、両親は集落を襲った盗賊に襲われ、殺されてしまったのだ。

 それからは長老が育て親として面倒を見て、今まで過ごしてきた。

 そんなある日、旅をしている神官がこの集落を訪れ、エルティは自身に魔法の才能があることを知った。

 さらに、神官から魔法を使うための手解きも受け、神官が去ってからも修行を続けていたのだ。

 その結果、エルティはこの集落一の実力者となり、今まで狩りの手伝いなど、様々な面で活躍してきた。


「この場所を移動するのが嫌でも、お金や作物がないと税を納めることもできない……そのためには、外に稼ぎに行かなきゃいけないのよ」


 長老に対して色々口にしたエルティだったが、その本心はこの集落に住む人たちを助けたいということだけだった。

 だが、長老はエルティが外の世界に出るのを許可しない。

 それもまた、エルティを育ててきた長老だからこそ、心配していたのだ。

 両者の思いがすれ違う中……日常は突然終わりを告げた。


「と、盗賊だあああああ! ぎゃっ!?」

「きゃあああああああっ!」


 見張りに立っていた村人が力いっぱい集落中に聞こえるように叫んだ瞬間、その見張りの喉に矢が突き立った。

 そして、集落の中に次々と盗賊たちがなだれ込み、建物を破壊しては抵抗する男は殺し、女や子供を拘束していく。

 エルティはすぐに騒ぎの方に駆け付けるも、すでに多くの村人の命が奪われていた。


「みんな……!?」

「あん? おいおい、こんな辺鄙な場所にはもったいねぇ上玉がいるじゃねぇか」


 すると、獣の毛皮のベストを着た、頭領らしき大柄の男がエルティを見て、舌なめずりをする。


「アンタら、よくも……!」


 怒りに染まったエルティはすぐさま両手に魔力を集めた。


「その者を焼き尽くせ――【フレイム・ボール】!」


 すると、エルティの両掌に炎の塊が出現し、それをエルティは盗賊たち目掛けて投げつけた。


「ぎゃああああああっ!」

「チッ……魔術師か! おい、アイツの動きを止めろ!」


 何人かの盗賊は先ほどの魔法で焼かれ、そのまま命を落としたが、それでも盗賊の数は十数人以上残っていた。

 すぐさまエルティの動きを封じるため、残りの盗賊たちが一斉に襲い掛かるも、エルティは動き回り、魔法を放ち続ける。

 だが……。


「おい、動くんじゃねぇ! こいつ等がどうなってもいいのか!? ああ!?」

「え、エルティ!」


 盗賊の頭領らしき大男が、一か所に集めていた女たちの首元に剣を突き付けた。

 さらに、他にも抵抗することなく拘束された男たちや子供にも、盗賊たちは次々と剣を突き付けていった。


「あ、アンタたち……!」

「おっと、下手に動くんじゃねぇぞ? 動けば、テメェの大事な人間の首が飛ぶんだからよぉ?」

「――――エルティ!」

「! おじいちゃん!?」


 すると、拘束されている人間の中に、長老の姿があることにエルティは気づいた。

 すぐにでも魔法を使いたいエルティだったが、盗賊たちは村民たちを盾にしているため、どう狙っても村民たちも巻き込んでしまう。

 何もできないエルティは、悔しそうに拳を握った。

 構えを解いたエルティを見て、頭領の男は笑みを浮かべる。


「へへ、最初から大人しくしてればいいんだよ」

「だ、ダメじゃ! エルティ、逃げろ!」

「うるせぇ!」

「ぎゃあっ!」

「おじいちゃん!?」


 エルティに対し、逃げるように叫んだ長老だったが、その瞬間、盗賊の一人に殴り飛ばされた。


「おっと、また暴れるんじゃねぇぞ? お前の行動で他のヤツを殺したくはねぇだろ? ん?」

「クッ!」


 大男はエルティの前に立つと、その顔を手で掴む。


「おおう、見れば見るほどいい女じゃねぇか……なあ!?」

「きゃああああっ!」

「エルティ……!」


 エルティは大男の手によって組み伏せられると、乱暴に衣服を破かれる。


「まったく、こんな場所に集落があるなんてなぁ! 拠点を探すために訪れて正解だぜ。ここならクソウゼェ巡視の姿も見ねぇしよ。難点は、周囲に女がいなくてつまんねぇってことだったが……それも解消だぜ」

「い、嫌、止めて……!」


 必死に大男の腕から逃れようとするエルティだったが、男の力には敵わず、しっかりと拘束されてしまった。


「そう暴れんじゃねぇよ。まあ、嫌がる女を犯すってのも最高だけどなぁ!」

「お頭ぁ! 俺たちにも楽しませてくださいよぉ?」

「ったく、しゃあねぇなあ! だが、俺が終わるまで待ってろ! ……ってなわけで、精々壊れないでくれよぉ?」

「ぐ、ぅぅ……!」


 大男は自身のズボンに手をかけ、下半身を露出させると、そのままエルティを犯そうとした――――その瞬間だった。


「ん? ……な、なん――!? ぎゃああああああ!」

「ああ? なっ!?」


 突如、漆黒の巨大な熊が、集落にすさまじい速度で突入してきたのだ。

 その熊は、勢いを落とすことなく盗賊たちに突撃すると、その巨大な腕を振るうことで一瞬にして肉片へと変えていく。

 今からエルティを犯そうとしていた大男は、ズボンを下ろした状態であり、すぐに動くことができなかった。

 ――――だからこそ、その強烈な一撃を避けることができなかった。


「は? ――――ガアッ!?」


 エルティの目には、その一撃が何なのか、しっかりと映っていた。

 何か棒のようなものが、大男の横っ面を強烈に打ち抜く様子を。

 間一髪のところで貞操の危機を免れたエルティは、大男を吹き飛ばした存在を呆然と見つめていた。


「なっ……なっ……!?」


 透き通るような白銀の長髪と、澄んだ青い瞳。

 極限まで鍛え抜かれた芸術のような肉体。

 その身から迸る力強い生命力。

 そして――――。


「きゃあああああああ!? 変態ぃぃぃぃいいいい!?」


 ――――大きく揺れる、巨大なイチモツを。

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