インナーチャイルドとの対峙、そして

作品紹介にある通り、本作は熊本くんという男性について描かれたものです。
平凡ではあるものの、ある種の歪さを抱えた家庭に育った熊本くん。
そこを根として、やがて身の回りで起きる様々な出来事から形成されていく彼のパーソナリティが主題となります。

カテゴリにはLGBTやBLが含まれていますが、主題はそこにはありません。
熊本くんという人物を深く掘り下げる際に、彼のバックグランドの一要素として扱われています。

作中に登場する数々の機能不全の家庭と、一方通行だらけの愛。
それまで多くのことに受け身であった熊本くんは、自分の根幹を為しているものと対峙した結果、最後の最後でその両方の望むべき形を手にして物語は終わりを迎えます。
そして大きな代償を抱えつつも、生きることを諦めないと決意します。

読み進めていく上で油断のできない小説だった、というのが読了して最初に出てきた感想でした。序盤から出てくるちょっとしたセリフや名詞、何気なく見える描写が後々のシーンで伏線となって戻ってきます。
二度三度と読む度に新しい発見を楽しむことができる作品だと断言します。

しかしなんと申しましょうか。
人間礼賛的なストーリーが多く見受けられる中で、恐れることなく人間の持つ闇の部分を描ききった手腕には頭が下がります。