ファンタジーとは、現実を忘れさせるものではありません。ファンタジーとは現実そのものです。現実を、別の形に移した置き換えたものです。
だからこそ、その世界観や作者の目線は、書かれた時代を否応無く反映してしまう。
2018年に生まれたこの作品には、作者の時代に対する厳しい眼差しがあるのではないか、と思う。もっといえば、彼の人生観のようなものも感じる。
多くの人が支持した、求めたということは、この作品は、現代そのものなんじゃないだろうか。
子供の頃に熱中したゲームのような、というだけではないなにかがある。
別の角度からいえば、あのとき熱中したゲームのような世界に僕たちはいるのかもしれない。
だったら僕らはどうやって生き延びてやろうか? ヒントはこの小説にあるかもしれない。
ファンタジーを敬遠している人も楽しめる、丁寧な文章です。イメージがすっと頭に入ってきます。むしろ現代を舞台にした作品を主に書いている人こそ読むべきかも。
イワトオさん、僕はあなたの小説が大好きです。
面白い。
最初のlv1メンバーの地道なダンジョン浅瀬潜りにはかつて自分がやったダンジョンRPGのレベル上げの光景が目に浮かび、情景がありありと思い起こせます。
明らかに実力に見合っていないクエスト、文字通り死にかけながら思考錯誤して、ときどき仲間も死んで。メンバーチェンジしながらも何とかこなす。
淡々と進む傍ら、それでも確かに育まれる仲間同士の信頼感。
どこから見てもモブな主人公ですが、自分の理想を引き寄せる為に手段を選ばないところは非凡で格好いい。成長はゆっくりですが、確実に強くなっているのでどこまで行けるか楽しみです。
目指せ借金返済!
流れ作業で育成され、六人まとめて迷宮に放り込む新人冒険者の生還は、いくら考えても、注意しても、最後の最後は運任せ。
死者蘇生が可能な世界でも、新人の稼ぎと蘇生費用の差は、死を「不可逆」と呼ぶのに余りある。新人でも一度の探索で数百ゴールドは軽く稼げる上に、たった250ゴールドで蘇生できるゲームとは訳が違うのだ。
誰にでもできる仕事で、それなりの報酬が得られるのなら、命を懸けるのも妥当なのだろう。
迷宮内外の思惑、都市の市民や迷宮の住民、物語上ではモブやモンスターでしかないそれぞれが、何を考え、どうして現状に至ったのかが綴られるのも面白い。
命が軽い頽廃的な都市で、環境を諦めつつも、命までは諦めない主人公が、「御都合主義」より「悪運」で生き残り続ける、良作ダークファンタジー。
夢なんかない、希望なんて語らない、魔法は大して役に立たない、あるのはひたすら意思と覚悟。
奴隷の身分で、小金を稼ぐために魔法を覚えさせられ、わりと人が死ぬ職場(迷宮)と家(物置小屋)を往復する主人公、その名はア。
ひたすら生き延びるために知恵を振るい、時には嘘や芝居を交える中で静かに積み上げられていく仲間との友情。
言わなきゃいけないことをちゃんと言う度胸。
さっぱり強くない魔法使いが今日も泥臭く生き延びる迷宮青春譚。
あらたなヒーロー像がここにある。
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第80話「所有権」まで読了。
私の評価ポリシーにつき、未完の作品は星二つが最高評価。