「主人公だから生き残る」のではなく「生き残ったから主人公になった」のだ

流れ作業で育成され、六人まとめて迷宮に放り込む新人冒険者の生還は、いくら考えても、注意しても、最後の最後は運任せ。
死者蘇生が可能な世界でも、新人の稼ぎと蘇生費用の差は、死を「不可逆」と呼ぶのに余りある。新人でも一度の探索で数百ゴールドは軽く稼げる上に、たった250ゴールドで蘇生できるゲームとは訳が違うのだ。
誰にでもできる仕事で、それなりの報酬が得られるのなら、命を懸けるのも妥当なのだろう。

迷宮内外の思惑、都市の市民や迷宮の住民、物語上ではモブやモンスターでしかないそれぞれが、何を考え、どうして現状に至ったのかが綴られるのも面白い。
命が軽い頽廃的な都市で、環境を諦めつつも、命までは諦めない主人公が、「御都合主義」より「悪運」で生き残り続ける、良作ダークファンタジー。

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