勇者も戦士も評価は他者

英雄かどうかは歴史が決める。
勇者かどうかは周囲が決める

書籍化された第一章分を読んでの感想です。二章以降は未読なので、先を読んだ方々には違和感ある感想になるかもしれません。ご容赦ください。

力はそれを行使するものに委ねられるが、後に評価されるのは「自分の決断」が出来たものであると思う。大抵の一般兵士たちは言われた通りに動き、自分の人生への思いや、憤懣、叫びをぶちまけられないまま命を奪われていく。
個人の運命など他者の動向でどうにでもなる。
同じ名前だと言うだけで、収容所の残忍な看守と間違えられて処刑されたBC級戦犯然り、勢力争いの犠牲になって、生まれた時から過酷な生活を強いられた挙句に殺されていく難民の子供たち然り。
会社上層部の無茶ぶりを何とか実現しようと他者を傷つけ、自分も傷つかないと生きていけないサラリーマン然り。
みんな、評価は他者が決める。
はなはだしく脱線してしまったが、主人公の奴隷「ア」も、本来なら「一山いくらの『数』としての死」で片づけられる運命の下っ端魔法使い。だが彼は抜群の嗅覚で生き抜く。
感性を摩耗させず、社会評価の犠牲になっていく教団から、なんとか子供たちを救おうとする。
彼を取り巻く人たちも、手放しで称賛される「英雄」ではないかもしれないが、彼をないがしろにしない。その接し方のバランス感覚。

私は動体視力が弱いためゲームはほとんどしないが、これがゲームを根底に置いた作品だというのは分かる。
その切り口と、作者の確かな社会を見る目、人を見る目、抜群の共感性は一読すればわかる。

本作を読んですぐに想起したのは、第一次世界大戦のヨーロッパ西部戦線で、長大に掘られた塹壕の中での殺し合い、そしてガイアナ人民寺院の集団自殺事件である。
ただしこんなことを小難しく考えなくても十分楽しめるし、何より面白さが途切れない。一気読みさせる筆力は素晴らしい。

「ア」くん、初スケベは覚えておこうな。

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