蒸発した父親が魔王だったらしい件について

密家圭

prologue ―奇妙な夢―

 実際に鍵が掛かっていたのか、自分が心の中で鍵をしてしまっていたのか。


 理由は分からないが、父が突然蒸発してからの十年間、俺-新城しんじょう 竜生りゅうせい-には、父が使っていた部屋のドアを開けた記憶なんて全くなかった。

 それを今日開けてみたのは、特に理由なんてなく、なんとなく、だった。いつも素通りしてしまう角部屋のドア。ノブの部分だけが内側から光源を放っているかのようにいつもよりも光って見えて、ついドアノブに手をかけて、引いてしまった。


「何だ、これ」


 半分くらい開いたドアの奥には、真っ暗な中でさらにどす黒いもやのようなものがぐるぐると渦を巻いていて、ゲームのワープホールみたいになっていた。色といい渦巻き模様の歪さといい、魔界にでも繋がっていそうだ。

 天国か地獄か。

そんなどちらに転ぶか分からない非日常より、なんとなく穏やかに生きられることがほぼ確定している日常を選びたい。

 そんな考えの俺は、半分だけ開けてしまったドアを、なるべく音を立てずにゆっくりと閉めて、今見たのは全て気のせいだったと思うことにした。



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