男装の美少女

ぷるりとした唇が不穏すぎる言葉を紡ぐのとともに、真っ直ぐと首へと向かってくるナニか。


「え……。」


思わず避けたそれは頬を掠め、数秒後にそこから痛みが広がった。紙で指先を切ってしまったときのような、痛み。そして、目の前の子供が手に握っている、黒く鈍い金属光沢を放つ剣。

確認するように頬に当てた右手の指先に付着した赤いものは、紛れもなく自分の血だ。

何が起きたのかサッパリだ。分かるのは、目の前の美形は何かのキャラ真似で見知らぬ人に切りかかってくるようなかなりヤバい類いのコスプレ野郎ってことだ。なんてことだ、こじらせすぎだろ!!

こいつの親は一体何をしていたんだ!!!


「って、うわ!!」


頭の中で相手の親をディスっている間にも、第2の剣撃が飛んできた。


「危なッ!?何するんだよ!!警察呼ぶぞ!!」

「ケイサツ?貴方の抱える私兵か何かですか?……構いませんとも。百でも千でも、好きなだけ呼べば良い。人間がいくら集まったところで、魔界を統べた偉大なる王の正統な後継者たるこのヘリエス=ベルゼリウスの敵ではありません。」


剣撃は止まったものの、氷蒼アイスブルーの瞳は静かに俺の方を見つめていて、「警察」という言葉に動揺した様子が全く見られない。


「え、本当に呼ぶぞ!?」

「どうぞ」


携帯を出して操作するふりをしても、瞳に揺らぎが現れない。むしろ初めての通報に俺の方が焦っている。手汗だって止まらない。

……いや、待てよ。いきなり警察沙汰なんかにしたら、駆けつけたご両親が泣き崩れるどころか、「いきなり警察沙汰にするなんて!この子の将来のことも考えて下さい!」なんて逆ギレしてくるパターンもあるんじゃないか。この前の本屋の万引きがまさにそんな感じだった気がする。

こんなブッ飛んだことをする子の親だ。十分ありえる。

こういう時は、とにかく「関わるな」だ。

ここは穏便に済ませて、明日になったら「そんなこともあったなあ」くらいの感想で終わらせることのできる「どうでも良い出来事」になるように動くのが最良策だ。

「いや、やっぱり警察は止めておこうかな~。ね、それよりその危ないのは仕舞おっか?女の子がそんなもの振り回しちゃーーー」

だと!?馬鹿にするな!私は断じて女児等ではないッ。」

「うわっ!」

先程の一撃とは段違いの勢いで大剣が降り下ろされ、右肩の上を掠めた。凄い風圧が頬に当たるし、耳にもゴオッと風の音が一気に入ってくる。

これ、当たったら絶対に致命傷だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る