やっぱり不幸な日

 薫と別れて数分、何の変哲もない帰り道を辿りながら、先ほどまで話していたせいか、父さんの姿を思い浮かべてしまう。

 

 突然俺と母さんを置いていなくなるまでは、父さんのことが大好きだった。

 自分を筋肉質な腕でひょいっと持ち上げて肩車する逞しさだとか、白い歯を見せてガハハと豪快に笑うところが男らしくて、当時は戦隊ヒーローと同じくらい、憧れだったし、尊敬していた。


 ――ただ、ファッションセンスだけは当時から唯一好きになれなかった。どこの店から見つけて来たのか分からない、何かの毛皮らしいロングコート。スパンコールのようなものでできたサイズがピチピチの黒光りするタンクトップ、チャンピオンベルトみたいなバックルのベルト、蛇皮で作りました!って感じの微妙にテカテカした柄ズボン。思い出せばきりがないが、とにかく酷かった。

 あれを上回る、いや、下回る?ファッションセンスの持ち主に会うことはないだろうと思って生きてきたが。


「初めまして。」

「は、ええと、どうも……?」


 目の前に人形のように端正な顔の少年……いや、全体的な線の丸さからいって少女であろう子供が猫のようにひらりと着地した。

この事実だけで、どこから降ってきたかとか、こんな美しいかおの子供が今まで近所に居ただろうかとか、疑問と驚きは尽きない。けれど、そんなものは一瞬で吹き飛んだ。


 ……服が。服が、圧倒的にダサい!!!


 まずカラスの羽根みたいなのがついた肩パッドとそこから地へ続く漆黒のマント。次に胸当てのような銀色に光っている金属製のアイテム。恐らく同素材と思われる鎧っぽい腕当てと靴。極めつけは修学旅行で木刀を買ってしまう小学生もびっくりな、腰に差している真っ黒い柄の剣。

 せっかく首もとを飾るレース調のアスコットタイや、膝が隠れる丈のかぼちゃパンツが西洋の中世貴族の少年を模したアンティーク・ドールさながらに目の前の子供を飾り立てているのに。

 なんのコスプレか知らないが、一体なんでこのキャラを選んでしまったんだろう。もっとマシなのがいくらでもいたはずだ。

 見た目からしておそらく中学2年生くらいだと思われるが、これは文字通り中二病と言うやつだろうか。多分数年後には思い出してのたうちまわりたくなること間違いなしだ。


「さて、突然で申し訳ありませんが、」


 この敬語も何かのキャラの真似か。心の中で生暖かい目、現実では遠い目をする俺に気づかず、思ったより少し低めの、凛とした声が静かに告げた。


「死んでください。」












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