窮地

 相手の外した攻撃で、背後のコンクリート塀が破壊された。


「ちょっ。やめっ……!おいっ!」

「殺す……!お前など、お前のちっぽけなセイなど、私には関係ないッ。私の家族は偉大なる父上のみだ。人間との紛い物であるお前などを、私は認めない!父上の後を継ぐのは、このヘリエス=ベルゼリウスだ!!」


 何か分からないがマズい。

――逃げよう。


「待て!」


 待てと言われて待つバカはいない。こんな状況なら尚更だ。


……さて、どうするか。


 まず、あれがコスプレ用の飾りの剣じゃないことは、この頬の切傷と先程の風圧が証明済だ。

 あんな風圧を出せるようなデカくて重い剣を振り回しているんだから、華奢な見た目と違ってあいつはかなりの怪力だ。

 比べて俺はどちらかと言うまでもなくモヤシっ子のインドア派だ。あんなのとまともに戦ったら多分5分しないで死ぬ。

 でも、近所であんな子は見たことがないから、この辺りの地理ならおそらく俺の方が得意だ。

 交番は遠いから無理だ。頑張れば行ける距離だが、警察って言ってもとぼけるようなヤツだから、リスクを冒してまで行くメリットはない。

 考えてるそばから息が限界だ。次の角で曲がってちょっと休もう。



 久しぶりに全力で走った。息も辛いけれど、脚の筋肉も変な震え方をしている。

……今追い付かれたら死ぬな。

 走っているときからいろいろ考えてみたけれど、さっぱり良い案が出ない。ヒーローとかならここで普通にはない発想をひらめいて、敵と戦って勝利したりするんだろうけど、生憎おれはどこにでもいる一般家庭の高校生だ。

 こういうときにとる選択肢は一択、スマホに頼るに決まっている。

 ダサくて地味で発想力皆無の方法でも、生き残ることが最優先だ。俺はヒーローなんかじゃないんだから。


「通り魔_対処法 、っと。」


 検索キーをタップしたら、検索結果が直ぐに表示された。意外とたくさんある。

 これなら行けるかもしれない……!


「えーと、斬られるなら頭…?」


 頭は丸みを帯びているため、めったなことがないと斬られないとか書いてあるけれど、斬られるような状況になってる時点でめったにないことだろう!

 というかどのサイトも一般的な家庭にある包丁とかの前提で話をしている。そりゃあ真剣を振り回すような通り魔なんて普通は遭遇しないだろうけど。

 それにしてもなんかもっとこう……何かはあるだろう!


「胡椒と唐辛子を携帯しておく?や、俺が探してるのは今からできる対処法だから。ん、木材は意外と強いので、木刀等で対抗?そんな手頃なもの都合良くあったりしたら苦労しないよ!」


 不安になるとつい大きな声で独り言を言ってしまう。悪い癖だとは思っているけれど、なかなか治らない。

 というか、だいぶ息も整ってきたし、あれからそこそこ時間が経ったと思うけれど、全然追ってきている気配がない。


 ……よく分からないけれど、助かったってことで良いのだろうか?

 




 

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