自称妹は攻撃的
無事撒いたのか、気配が全くないので、尾行する探偵のように壁にぴったり沿って移動し、曲がり角の塀から慎重に顔を出す。
――キィン!
一瞬の金属音とともに、鼻先数ミリ、目の前を真剣の先が横切り、塀に刺さった。
「これ以上は無駄です。もう終わりにしましょう。」
思わず腰が抜け、すくむ足のまま崩れるように座り込んだ俺に全く躊躇する様子なく、太陽を背にした彼女が剣を抜いた。
空高く振り上げられた、黒く光る大剣。これが降り下ろされた瞬間、俺は死ぬだろう。
ああ、不幸な日なんて一言では足りないくらいの災厄だ。
いつも通り普通に過ごしていたはずなのに。なんてツイてない。なんて不条理だ。なんて、何で。
――なんで。
「なんで、俺なんだ……!」
ギリ、と歯を噛みしめながら出た声は、自分で聞いても情けなさすぎるものだった。
少女は振り上げていた剣を降ろし、要領の悪い生徒を相手にする教師のような、呆れの窺える小さな溜め息を吐いた。
「最後の言葉がそれとは嘆かわしい。
「兄だって……?」
俺が拾って口にした言葉に、ヘリエスは忌々しげに片眉をピクリと上げた。
「血だけを見れば、という話です。しかしヒト族の卑しい血のせいでしょうか。貴方は父上の優れた点を1つも受け継いでいません。その惨めな
彼女が最後に口にした言葉に、心臓が一際大きく跳ねた。
そのままバクバクと心臓が五月蝿くなっていくし、背中にも嫌な汗がどっと吹き出てきた。
「おい待て!その女っていうのはまさか……!」
「もちろん貴方の穢らわしい母親ですよ。卑しいヒト族のーー」
「ふざけるな!!」
まるで自分の喉ではないところから出たような声がビリビリと空気を揺らす。
突然の怒号に驚いたのか、ヘリエスはほんの僅かだが左足をひき、気を引き締めるように剣を握り直す。
――ドクン。
未だ震える空気に共鳴したかのように、心臓が大きく揺れた。
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