血の鎖
起き上がり、自分の姿を確認して愕然とした。
起き上がった時に右手を覆っていた黒い金属製の装甲は、左手にも同じようについていたし、両足に履いていた普通のスニーカーも、手の装甲と似た金属製のブーツに変わっていて、膝のあたりまでを覆っていた。
目の前で剣を構えることもなく硬直してしまったヘリエスの足元を見やる。
……そっくりだった。
俺の手足を突然覆った装甲は、彼女が身に付けているそれとそっくりだった。
しかし違うところもある。俺は彼女が持つような剣は持っていないし、彼女は俺のようなベルトは着けていなかった。
この、チャンピオンベルトみたいな太さのベルトは、どこかで見覚えのあるものだ。
「これ……。え、父さん……?」
記憶の中で気前良く笑っている父が、こんなベルトをしていた。こんなダサくて目立つもの、忘れるはずがない。
「お前が口にするな!」
動きを止めていたヘリエスが、意識を取り戻したかのように、突然襲いかかってきた。
「有り得ない……!先程までは、魔力の欠片もない、ただの脆弱な人間だったはずだ。それが父上と同質の魔力を纏っているとは、どういうことだ!」
「俺に言われても……。俺だって何が何だか……。」
様子を伺っているのか、先程よりも数段キレの悪くなった剣先を避けながら答える。
もちろんヘリエスがこんなしどろもどろな回答で納得する訳がなかった。
しかしこの装甲、見た目の割に重くなくて助かるが、ヘリエスの剣に対する防御力がどの程度あるのか全く分からない。
――このままでは確実に圧し敗ける。
近くで見て分かったが、ヘリエスはかなり剣の訓練を積んでいる。彼女の白い手は、幼馴染みの剣道部長が全国大会に臨む時期に作っているような、出来ては潰れることを繰り返したであろう血豆が指の付け根に何個も滲んでいた。
一方こっちは料理が趣味のインドア派だ。剣ではなく中華鍋をコンロ上で振り回すことはできるから、力はそれなりだが、その程度だ。
レベル差は明らかだ。身に付けている装甲もお互い似たような素材だから、総合スペックはあちらが上回っているだろう。
違いと言えば剣とベルトくらいだが、ベルトで剣に勝てる訳がない。
考えている間にも、ヘリエスの剣先によって、右手の装甲が小さく欠けた。
「ハッ。所詮は人間。見た目だけだな。」
やはりこのままでは防ぎきれない。これでは見た目がダサくなっただけで、何も状況が変わらない。むしろ悪化している。なんて使えない変身なんだ。
「せめてこのムダにゴツい宝石的なのからビームでも出ればなあ……!」
ベルトの中央についている謎センスの宝石を、昔の壊れたテレビのようにバンバンと叩いてみる。
黒色に鈍く光る宝石は叩く度に緑、青と色を変えて、星のような輝きを見せた。
そして――。
――それだけだった。
ビームは、出なかった。
「……。」
「バカな……!フラグメントだと……!?」
思わせ振りに光ったクセに何も起こさなかったベルトに呆れていると、ヘリエスが顔色を変えた。
「やはりお前は私がこの手で殺しましょう。そして、そのフラグメントはこのヘリエスに渡して貰います。」
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