すべておみとおし
「それでは、盲目の男はセントキャサリンのパブにいると」
「そうだ。君が掴まされたのが全くのガセネタでない限りは」
先生は事もなげにそう言うと、懐から古風なパイプを取り出した。
ゆっくりと煙草が詰められる。
パイプが中ほどまで満たされたあたりで、私は椅子から腰を浮かせた。一刻も早くセントキャサリンに向かいたい。とその時、先生がおもむろに口を開いた。
「…セントキャサリンに行くのかね」
「はい!」
先生はパイプに目を落したまま続ける。
「君は探偵としては未熟もいいところだが、雑誌の記者としてはなかなかに優秀だ。君なら今ある情報でも面白い記事か書けるのは間違いない。
それに、セントキャサリンに行ったところで、その男に会えるという保証もない。いや、無駄足に終わる可能性の方が高いだろう。それでも行くつもりなのか」
「先生、何が言いたいんですか?私が今さら何を言われたところで行くのをやめるような人間じゃないことは、先生も重々承知のはずです」
「…そうだったな。君は止めてどうにかなる人ではない。
率直に言うと、私は君にこれ以上この件に関わってほしくはないが…老人の諫言ほど野暮なものもないな。失礼した」
先生は煙草を詰め終えたパイプを銜えると、二度に分けて火をつけた。
「知りたければ、知らねばならない…だったかな、君のモットーは。
ひとつだけ、ここで君にギネスを奢る用意があることだけ、覚えておいてくれたまえ」
紫煙が温かく席を満たした。
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