静謐さのなかに抒情とおかしみが際立つ、気づけば横尾くんワールドの虜

ラブコメと思いながら何気なく頁をひらくと、『一輪の花は……』と思いもよらず川端康成の言葉で始まり、一気に心を鷲掴みにされました。

お話は隣の席の "横尾くん" と "私" とのお喋りを軸に展開していくのですが、横尾くんがなんとも言えず魅力的。憎まれ口を叩いているのかと思いきやそうでもない。それどころか穏やかな愛を感じるくらいで、たまに才気ある発言で不意を突いてくる。そしてときどき可愛い。

そんな "横尾くん" と "私" との日々のやりとりが静謐な筆致で淡々と綴られるので、もうよけいにクスクス笑いが止まらなくなります。コミカルで、どこか哲学的でもあって、ついつい笑みがこぼれてしまうような、心温まる作品です。

また "私" の視点で描かれているというのもポイントで、たまに「おや?」っと認知のずれが浮き上がる場面があり、「上手いなぁ~」と一体何様なのかわからないことばを思わず心の中で呟いて、さらに「ふふっ」となります。

作品全体を通じて少しずつ変化する季節に、友と過ごす日常の儚さを想い、ふと静かに光る青春の気を感じます。

一話読み進めるたび胸に沁みわたるような充実感が広がるこの作品、ぜひ一度ご覧になってみてはいかがでしょうか。オススメです。

その他のおすすめレビュー

数波ちよほさんの他のおすすめレビュー224