ラブコメと思いながら何気なく頁をひらくと、『一輪の花は……』と思いもよらず川端康成の言葉で始まり、一気に心を鷲掴みにされました。
お話は隣の席の "横尾くん" と "私" とのお喋りを軸に展開していくのですが、横尾くんがなんとも言えず魅力的。憎まれ口を叩いているのかと思いきやそうでもない。それどころか穏やかな愛を感じるくらいで、たまに才気ある発言で不意を突いてくる。そしてときどき可愛い。
そんな "横尾くん" と "私" との日々のやりとりが静謐な筆致で淡々と綴られるので、もうよけいにクスクス笑いが止まらなくなります。コミカルで、どこか哲学的でもあって、ついつい笑みがこぼれてしまうような、心温まる作品です。
また "私" の視点で描かれているというのもポイントで、たまに「おや?」っと認知のずれが浮き上がる場面があり、「上手いなぁ~」と一体何様なのかわからないことばを思わず心の中で呟いて、さらに「ふふっ」となります。
作品全体を通じて少しずつ変化する季節に、友と過ごす日常の儚さを想い、ふと静かに光る青春の気を感じます。
一話読み進めるたび胸に沁みわたるような充実感が広がるこの作品、ぜひ一度ご覧になってみてはいかがでしょうか。オススメです。
中学3年生の"私"と教室で隣の席に座る"横尾くん"が展開する、ありふれた(そして少しだけ変わっている)日常を描いた連作短編集です。
ユニークな感性を持つ横尾くんの語りにくすっとしたり、知ってもあまり得をしないような豆知識に感心したり、じれったい2人の距離感に悶えたり、ふとした瞬間の深奥を突く一言にドキッとしたりと、読者の心の色々な部分を刺激してくれるのがこの作品の素晴らしさです。
隣の席の2人によって繰り広げられるどこまでも微笑ましい日常をいつまでも眺めていたい気持ちになりますが、時間は一方通行です。
時が経てばいずれ"私"と"横尾くん"を取り巻く環境は変わりますし、2人の距離感も変わってくるのでしょう。
しかしだからこそ、現時点でのありふれた日常が、何よりも愛おしいものとして感じられます。
ゆっくりと、だが確実に過ぎていく2人のありふれた時間を、これからも読者のひとりして共に過ごさせていただきたいと思います。
横尾くんと「私」との軽妙なやりとりが楽しく微笑ましい作品です。二人の会話(というか横尾くんの語り)の話題は多くが日常的な事柄ですが、それがときに人生観にまで発展していて、そのあたりも思春期ならではの心の機微が上手に表現されているように感じました。
横尾くんはコミカルに描かれていますが、ときどき自分も作中の「私」と同じく、心のなかの大事なところを不意に横尾くんに突かれたような印象を受けて驚いたりしています。あと、たまに横尾くんがいないのも面白いですね(笑) いないのかよ、と思わず突っ込んでしまいました。
自分を「私」に重ねるか、それとも横尾くんに重ねるか、というのも、読むひとによって変わってきそうで、それもこの作品の面白いところだと思います。私は基本的に「私」の目線で読み進めつつ、ときどき横尾くんになったつもりで、語っていないときにふと眺める隣の席の女子の横顔を想像したりしています。引き続き楽しみにしています。