第8話 サイバーマン(いーすとさん)

 ねえ、サイバーマンって知ってる?



「ああ、あのなんか全身スーツで不法侵入してくるっていう」


「違うよ、宇宙人なんだよ?辺り一面焼き尽くして侵略を企んでるらしい」


「すげえちっちゃくていっぱいいるんでしょ?」


「いつのまにかみんな、その話してるけど何何?うちわかんないんだけど?」


「だからあんあんスローガンからできた、ホログラムだろ?サイバー犯罪をなくすーっていう」


「ガチらしいよ?サイバーソード。本当にあちちちって死にそうになるらしい」


「VRのし過ぎだろそいつら」


「ただ罰金とか逮捕します、じゃいつまでたっても減らないからさ。もうそういうサイトは罠らしいよ?開いたら飛ぶって」


「アンアンって何?エロいやつ?」


「作り話でしょ」


「俺の友達でノーパソぐっちゃぐちゃに丸められるやついるんだけど、サイバーマンかな?」


「猫みたいな動きするんだって!!」


「ねえねえ↓


 この映像ヤバい、サイバーマンすごい」


「そうそれそれ、見放題!!」


「↑こういうのな、開いたら来るぞ。サイバーマン」




 〇〇〇〇〇〇






「マジかよ?どうすっかな、やめよっかな。あ、やべおさっちゃった。まいっか」



 じーーーーーー




 アパートの一室。小さな四角い薄い板を持った人が、ニヤニヤとした顔をそれに照らされている。電気は落ちて真っ暗の中に、青白く顔だけが浮かぶ。



「ヒヒヒッ!この電子村とかいうサイトすげえぇ!!マジで電子書籍見放題じゃんか!」



 時刻は深夜、彼はまだまだ寝る気はないらしい。




『貴様のその行為は違法ダウンロードだ!』


「でたな、サイバーマン!!」


『そうだサイバーマンだ!!!』




「マンションのベランダからってこれ、何階だよ?あれか?ジャンプ力倍増シューズでもはいてんのか?クク」



 彼はこの部屋に住んでもう長い。もちろん1人だ。話しかけているのは四角い板、通話ではない。どこの誰とも繋がってはいない。いいや、彼のところにだけは繋がっていた。



「貴様のその行為は違法ダウンロードだ!!」


「え?えええ!?な、なに?どっから来たの?な、え?画面から?見てたのに、目の前にいる!!!都市伝説じゃなかったのか!?でもおれが悪いんじゃねぇ!誰でもタダで見れるなら見ちまうだろうが!それにお前のだぞ?サイバーマンの漫画!」


「私の漫画だろうが関係ない!」


「や、やめろちょっと待て、サイバーソードは出すな。出すなよ?外に出よう外に」


「ほうほう、今まで外に出ずに、仕事もせずに家の中でネットの波を漂っていたのにか!?」


「スマホもパソコンもなくなったら、俺は困るんだ!!」


「知らん!勝手に見てしまわないよう壊してやろう!!」


「くそ…そうだ!見れる様にしているこのサイトの管理人が悪いんだろ!?」



 ふーやれやれ、という仕草をするサイバーマン。スマホの明かり以外真っ暗なはずが、彼はうすらぼんやり銀色に光る。



「はあ、なぜお前たちはそうなのだ!みんなやっている、あっちが悪い、俺は悪くない、俺だけなんてひどすぎる、などと自分のしたことをまるでわかっていない。それにそっちの管理人には今頃サイバー戦隊が向かっている」


「サイバー戦隊?」


「ああ、レッドもブルーもグリーンもいる。イエローはインドに修行中、ピンクは募集中だ」


「仲間いたんだ」


「まあ俺は特別、仲間とはまあ少し違うが」



 ふーん、とそこでずいぶん長話をしていることに男が気付いた。漫画みたいにソードが出てあちちなって、ボロボロに壊されないで済むかも、と楽観的になってくる男。しばらく話をしようと決め込む。



「管理人の方のパソコンとかも壊すの?戦隊さんもソード使うの?よく知らないけどそういう人、ていうか会社ってパソコンなんていっぱいあるんじゃない?」


「もちろん壊す。荒技を支えるのは俺だけだ、正確には私のような銀色の発光体だけだな」


「え?俺んとこじゃなくてそっち行けばいいんじゃ?」


「ん?もちろん私はいるぞ?ああ、サイバーマンがなんなのか、ヒトは知らないんだもんな」


「なんだよもったいぶって、ここまで話したんだし教えろよ」


「まあいい、これで最初で最期だからな。ただ正体なんぞくだらん話はせん。向こうにいるサイバー戦隊は被害を最小限にするために派遣されている」


「サイバーソードの?」


「ああ、さすがにその漫画ほどの威力はないが超至近距離にヒトがいると、まあまあ危険なのでな、国も考えたんだよ」


「サイバーソードの威力を弱めればいいじゃん、お前もあっついんだろ?」


「あああっつい、ほんとあっつい、もうガチであっつい。ヤバイ、正直やめようかなって思うけど、そこは俺も男にあたるからな、頑張る。威力弱めたら頑丈な作りのを壊せないだろうが」



 少し様子がおかしくなってくるサイバーマンに、これはいける、と男は話を続ける。



「クク、なんでそこまで強力なの国が作ったんだよ?そこまでして壊さなきゃいけねえの?」


「はあ?国がそんなの作れるわけないじゃん、金がねえって騒いでるんだ。予算通るわけないだろう。なるほど貴様の考えが読めたぞ」



 男はギクッとする。



「誰かと話すのが久しぶりか?かわいそうだな」


「違えし、うるせえ!」


「冗談だよ、まあ冗談抜きで壊すけどな。やっと登場だ」


「さ、サイバーソード」



 もう眩しい部屋になる。ソードの先から出ている赤いビームがあたりを赤く染めあげた。


 ブオォン、ブォン



 あっという間に枕元にあったスマホは布団ごとなくなる。



「めっちゃ熱い!!」


『そうだぞ、すごい剣だ!!この熱量は六畳一間の、こんな狭い牢獄などすぐに灼熱地獄に変えるのだ!!』


「こ、殺す気か!?やめてくれぇ!!」


『殺しはしない!くっ!熱い!! 熱いぞぉぉ!!』



 そして限界に達したサイバーマンはサイバーソードを手放す。体全体が少しぐにゃりと歪んだようだ。



「ば、はかやろう!! 床が!!」



 ごとっと落ちたサイバーソードにより、本当に部屋は炎に包まれていく。そんな炎の海の中、サイバーマンは彼の前に立ちパソコンのデスクトップを丸める。



「あああ!!!ってあっつ!!おい!お前!そんなことしてないで逃げないと!」


『まだだ、まだこいつが残ってる』



 デスクトップを壊したところで無意味だ、と言いながらパソコン本体を殴る、蹴る、体全体を使って壊そうとする。



「なに、してんだよ」


『ぐっ、はっ!!ぐぅ!!』



 彼は攻撃しているのに苦しんでいる。彼は彼と戦っている。



「なんだよ、なんで壊すんだよ!お前!!なんで自分を壊すんだよ!!!」


『決まってるだろ、違法なんだよ、俺がいるからお前が悪いことするんだろう?なら俺は消える』


「もうしない!もう絶対しない!!だからだから、やめてくれ!!!!!」


『その言葉が聞けてよかったよ。だけどな、遅いよ。もうこれで、終わりだ!!!』



 サイバーマンの渾身の一撃。パソコンはめためたに壊れた。瞬間炎はあっという間に弱まっていった。パソコンはショートして発火、スマホはバッテリーの破裂。男は火傷を負って入院した。誰もいない病室に彼の声が響く。



「俺、お前がいなかったら本当にひとりじゃねえか」







 〇〇〇〇〇〇



「母さん!ちょっと、変なサイト飛ばないように気をつけてって言ったでしょ?」


「なんかねえ、メールが来てねえ」


「アドレス変えて、安安モードにして。はい、これでオッケー!」


「ありがとう!そういや火傷のところもういいの?」


「もう全然いいよ!」


「そうだ!あんたに相談しようと思ったんだわ」



 パタパタとチラシを取りに行く母。まだ元気、だけどいつかは。俺は実家に帰ってきた。今は世話になっているが働き出して、親にスマホも買った、俺のスマホも安安モードだ。もう二度と同じ失敗はしない。まっとうに生きて行く、あいつの死を無駄にはしない。



「あんたもきたからパートで働くのやめたでしょ?そしたら太っちゃってさ、これくらいならあたしでもできるかなあって」




『マスコットガール募集!!今をときめくサイバー戦隊のピンクを募集中!全国に必要です!みなさん奮ってご応募ください!!あなたの力が必要なんです!』


○応募資格

 女性であること


○年齢制限

 70歳まで(美魔女歓迎)


○仕事内容

 サイバーマンの応援、サイバー戦隊の告知、事務処理、戦いの後片付け


○時給

 700円(仕事量、内容に応じて昇給あり)



「掃除とか得意だし」


「本当に募集してたの!!!?絶対ダメ!」

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