第5話 「 豊穣の庭 」



 白い衣をまとったその人は、裏の畑へとおもむいた。


 腰丈ほどの緑葉が、うららかな陽を浴びて、一面におい茂っている。


「どれ、そろそろかな」


 白衣の人は手をのべて、青々とした群生の中から、茎を一本引きよせた。


 葉も、茎も、カリカリに乾いて枯れている。

 重たそうに首(こうべ)を垂れた先端には「茶色い実」がなっている。


 白衣の人は、ていねいに手折って、愛おしそうに目を細めた。


「茶色く枯れた実」は熟成の証。

 鳥に食われることもなく、立ち枯れることもなく、無事に育った果報者。

 そして、土壌の養分を自力で吸いあげ、ここまで立派に実ったのだ。


 とはいえ、時を同じだけ経ただけでは、同じように熟成するとは限らない。


 群生の中には「緑のままの実」もたくさんある。

 こちらはシワもなくつやつやで、一見きれいには見えるのだけれど、「緑の実」は生育不良だ。


 もう一度、土壌に戻してやる。


 熟成するまで、そうして何度でもくり返す。

 白衣の人は手をのべて、「緑の実」をていねいに手折り、隣の土壌に埋めてやった。


「さあ、しっかり育っておいで」


 こんもり、かぶせた土塊に、愛おしそうに目を細める。


 あたたかな土の下では、今頃、聞いているだろう。

「おぎゃー」とあがった産声を。




      ~  豊 穣 の 庭  ~




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぐるぐるの迷宮【ショートショート】 カリン @karin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ