第2話 「 中 心 」


 ヒトは四方八方に走っていた。


 生まれ落ちた"中心"から、なるべく遠くに到達し、生存に有益な情報を、本体に持ち帰るのが各々の使命だ。


 情報を得て強くなり、

 更に強くならんがために、

 ヒトは地平を目指して走り続け、新たな領域に挑み続ける。


 外へ、外へ、新たなる未知へ──。


 個々に与えられた時間は短い。

 己が領分を拡大すべく、ヒトは各々懸命に走る。

 伴い、生まれた当初は間近にあった渦の"中心"は、年を重ねるに従い、遠くなる。


 そこは、ヒトが生まれた場。


 外に向けて遠ざかるにつれ、やがて思い出せなくなった懐かしい故郷。

 かつてはそれにどっぷり浸かり、己が身の内にもあったのに。

 幼ければ幼いほどに "中心"について把握していた。


 ヒトは気になって仕方ない。


 それは封じられた安寧の世界、世界の全てがあるのだ。

 なぜ、自分は、ここにいるのか。

 どこへ行こうとしているのか。


 自分は一体、何者なのか──。


 だが、外を目指すのが個々の使命。

 ヒトは外円を形成し、"中心"は厳然と背後にある。


 とうとう誘惑に打ち勝てず、一人が肩越しにうかがった。


 途端、


 ひゅん──と大渦に巻きこまれ、

 空気の抜けた風船のように " 中心 " の周囲をぐるぐる回って、

 スポン、とそれに吸いこまれてしまった。




 

 

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