◇第2話「おしろ」◇


お城。キャッスゥ。

昔、戦乱の時代には、よく領土を見渡せる山などに、その地を治める武将が建てた、一種の象徴物。

そして、いつものように最小限の荷物を入れたポーチを下げる僕と、白いワンピースとポーチ、しかし靴はオシャレながらも機能性抜群そうなスニーカーの、今日も清楚可愛いいろはは、今そのお城の牢屋の中にいる。


そして、僕はそこで縛られていた。


「…そんな丁寧に僕を縛らなくても」

「だめっ。涼くんは罪を犯した、罰せられなければいけない」

芝居掛かった口調でいろはが言う。

「何の罪だよ!冤罪だ!」

…僕は果たして何をしたというのか。

事の顛末はどうだったかなぁ……―――――



僕達は、全国的にも有数である、幾多もの戦乱を乗り越え、今なお建築当時の姿を保っているお城を訪れた。

城内に「お邪魔しまーす」と入り、中の展示物やらやれ天守閣やらを見て、展望を楽しんで…、とかして楽しみたいな、と思っていた僕の目に、やたらやばそうなビラが目に入る。


その名も、「捕まってみたくない??」。


嫌だよ。捕まりたくねぇよ。

ていうかこんなのいろはが見つけたら、何これ!面白そう!やろう涼くん!ってなr

「ねぇねぇ!『捕まってみたくない??』だって!何これ!面白そう!やろう涼くん!」

「えっ、あっえっ」


ほらな。気付いた時には遅いんだ。

いろはは清楚な形をして、実は好奇心旺盛。行動力の化身なのだ。

というわけで、気付いたら捕まっていた。回想終了。


「やっぱ僕何も悪いことしてない!釈放しろ!」

「ダメです。もう処刑の準備は整っています」

「いやぁぁぁぁぁぁぁ」

ていうか何かいろはの手に鞭?みたいなのがチラッと見えたぞ。この部屋暗くて、いろはの背に光源があるから、見間違いかもしれないが。

見間違いであって欲しいなぁ、と僕がいろは(の手)を凝視していると、いろはがずいっ、と近づいてきた。


「何か私に変なの付いてる?服乱れてたり?あ、まさかスカートの中見えてた?もー、えっちだなぁ涼くんは〜」

ちげぇよ。スカートの中気になるけど見えねぇよ。ていうか鞭っぽいいのはどうやら鞭で間違いないから何されるか怖くてそれどころじゃないよ。


「変なのはついてないけど、変なのは持ってるよね?危ないからしまおう?ついでに僕を縛ってる紐解こ?ね?」

「だぁめ(♡)」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ」


無惨にも、僕には大人しく処刑されるしか道は残されていなかった。




(…酷い目にあった)

地獄の処刑大会が終わり、今はお城の天守閣。僕はさっきので疲れた体を癒しつつ、景色を楽しむ。


因みにあの後、いろはには鞭で一発ビシッとされそうになったが、いろはが模造刀を発見し「こっちの方がいいや」と、武器を変えてくれたので、身体の損傷は免れた。が、あちこち刀身で斬られ、刺され、挙句公衆の面前で死んだふりをリアリティにしろとか言うもんだから、もう公開処刑でしょこれ。いろははとってもご満悦でおられたのでまぁいいか。…いや何も良くないわ。

しかし、もし演技がダメだったらと思うとゾッとするなぁ…。


そんな事を思いながら、僕は天守閣で黄昏れる。

「はい、涼くん。麦茶」

「…ああ、ありがと」


受け取った麦茶は、汗をかいていないがひんやりとしていた。ってことは、いろはは保冷バッグ持ってるのか。女子力とかいうの?高いな(語彙力)。

なにせ、いろはのポーチは、見た感じすごく軽そうで、何が入ってるんだと思わせるくらいコンパクトなのだ。

まあでも、それは「令嬢ですし?まあそういう技術力の塊みたいなの持ってても不思議じゃないよね」って思う。本人には言わないけど。


そんじゃ麦茶、いただきます。

「…ぷはぁー!体の隅々に染み渡る感じがする」

「ミネラルが豊富だから、麦茶は水分補給には適してるんだよ」

へぇ、そうなのか。

「すごく香りも良いし、サラッとしてて飲みやすいな、このお茶」

「ふふ、ありがと。実はね涼くん、麦茶ってね、お茶じゃなの」


は?そんな馬鹿なぁ。


「…え、でも麦『茶』って言ってるし、お茶でしょ?」

すると、チッチッチ、と指を振って、実は違うんですよー、と続ける。

「大麦を焙煎して、それを抽出したもの。それが、みんなが飲んでる麦茶なんだよー」

「じゃあ、お茶じゃなくて『麦の抽出液』ってこと?」

僕が推論すると、ご名答ですっ!、といろはに褒められた。嬉しい。


「あとは、カフェインが入っていないのは大きいと思うよ。緑茶とか、紅茶とかと違って茶葉を使っていないから、葉っぱに含まれるカフェインが入らないの」


マジか、初めて知ったわ。


「へぇ、意外と麦茶って凄いんだなぁ」

「ねぇこのこと知ってた私を少しくらいは褒めてくれても良いんじゃない?」

「いろはこんな事知ってるなんて凄い!」

「…ごめんやっぱ言われない方が全然マシだった」

「素直に褒めたのになんか酷い!?」


そんな他愛もない話をしつつ、僕たちはお城を背景にいい写真が撮れるというスポットを訪れた。


「平日なのになんか賑わってるね」

いろはが場所を探しながら言う。しかし対する僕は、ある一点に釘付けになっていた。

「ねぇ涼くん、少し空くまで待っ、て何アレ!?」

いろはも気づいた、二人が見つめる先にいるのは、恐らくこのお城とは全く関係のないマスコットキャラクター(だと思う)。

しかし、その容姿が余りにも奇抜すぎた。


キャラの顔は坊主なのだが、頭にツノを生やし、何か坊主らしくない赤色の奇抜な服、短パンという訳の分からない格好なのだ。てか完全にせ○とくんだった。


「ここ遷都全く関係ないじゃん…」

「…だよね」

しかも、困った事に、せん○くんの周りには、物珍しいのか人だかりが出来ていた。


…うーん、このまま待っていると日が暮れてしまうぞ。

「…写真、どうする?」

そう、僕がいろはに尋ねると、

「私は、涼くんについてくよ」

彼女は、そう屈託のない笑顔で即答した。


風が凪ぎ、彼女の銀色の髪が揺れる。

笑顔は、地球を救う。正にその言葉通りだと、僕は思った。

…不意に見せるこの表情が、僕には似合わないくらい、いや比べるのもおかしいぐらいに可愛かった。

そして、同時に自分の顔が火照っているのも、嫌でも分かるほどに心臓の鼓動が高鳴っていた。


「…いい撮り方を思いついたっ!」

「え、あ、うん!」

恥ずかしさを隠すように、僕は半ば強引にいろはに携帯のカメラを向けた。

いろはは、ちょっとだけ戸惑うも、直ぐに僕に合わせてくれた。こういう機転がきくというか、僕の無茶振りにも嫌な顔せず対応してくれる彼女は、やっぱ僕には不釣り合いだ。


「はい、チーズ!」

パシャ。

「次私が涼くん撮ってあげる〜!」

「お、ありがと!」

僕はいろはと位置を入れ替わり、スマホをいろはに渡す。

パシャ。

「いやはえーよピースすらしてないよ」

「あはは、ごめんごめん。じゃあいくよー!」

「いやだからまだだっt」

パシャっ。


「気がはやぁい!

「あははっ、いや、涼くん、ははっ、焦ってる顔面白、いははは、あははは!」

え、ツボに入ったの!?今の僕の顔!?

僕の心を読んだのか、いろははこうも続ける。

「あははははっ、いやね、涼くんの顔が変なのであって、決して変な顔ではない、というか、はひーっ…」

「言ってる事支離滅裂だなオイ」

「…涼……の困……る顔、可愛……た…、もっ…見たか……」

「え?何て言った?」

「…なんでもないよ。あー、笑って涙も出ちゃったよ」

何だろう。ボソッと言ってたから、独り言かも知れない。ムッチャきになるけど。

でも、まあ当然ながら僕には聞く勇気も機会も無かったのであった。



その後。僕たちは二人で頑張って自撮りしようとしていたら、せん○くんに捕まった。

スタッフさんに(せん○くん入りだが)写真を撮ってもらい、二人でまあこれも思い出だよね!、と笑い合った。


そして、いろはが撮ってた僕の写真を自分でも見たんだけど、確かに可笑しかった。

だってブレブレだったからね。

そして、これは後に「涼夜写真ブレブレ事件」として語り継がれる事になる。

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