てーまぱーく[4]


ジェットコースター、お化け屋敷、メリーゴーランド。

数多くのアトラクションがあるとはいえ、その数は有限だ。遊んでいれば、いつか必ず限界を迎える。


僕達は、ウォータースライダーで死んだ(僕だけだが)後、誘った申し訳なさなのかいろはに英気を養ってもらい(おやつの恵み)、そして定番のゴーカートでレースした。


そしてそのゴーカートでは圧倒的勝利を収めたので、僕はもう満足です。いろはは膨れてたけど。


と、そんな感じで回りつつ、今度は僕達はピーポランドの外れの方にやってきた。


「あっ、大して綺麗でもないけど景色的には『綺麗……』ってなる謎の池だ」

「あいも変わらずディスるのやめようよ……」

「んでもさ、池があるって事はだよ?涼くん」

そういわれた瞬間、僕は王道のアレを思い出した。


「……ああ、なるほど。手漕ぎボートか!」


と、いうわけで。

僕らは何故か乗り放題パスが効かないボートに乗ることにした。



「まだオープンしたてだからだね。ボートが綺麗」

「アヒルさんボートでしっかりアヒルさんなの僕久々に見た気がするなぁ」

「あはは、かもねー」


そう、手漕ぎと言ったな、あれは嘘だ。

僕らが乗っているのは、足でペダルを漕ぐタイプのアヒルさんボート。しかも、悪意のある片方のみしかペダルが付いていないヤツである。誰だこのアトラクションに手漕ぎボートって命名したのは?


そして、なんといっても、辛い。壊れてるのか、と思うほどペダルの効きが悪いのだ。


「重いっ……!全然進まないぃぃ!」

「涼くんが力不足……じゃない?」

「発言はっ、僕と同じ苦しみを味わって、から、お願い、しまっ、す!」

「……涼くん、漕ぐのやめて休憩しよ?」


……もうどうにでもなれだ。

いろはの言葉を皮切りに、僕はアヒルさんボートの中で、超くつろぎ始める。


「……知ってる涼くん?あそこに山見えるでしょ?」

「ん?ああ、あの近いこじんまりしたやつか」

「あれ実は私の」

「私のっ……!?」


山一つ持っているJK。いやまあ正確にはJKじゃないのだが、そんな事はこの際どうでもよかった。


「今度、二人でキャンプでもする?」

「ふっ、二人でっ、キャンプ!?」

「……私何かおかしな事言った?」


いや、正直ついていけてないだけです。

「……ごめん、僕いろはがこんなに凄いとは思ってなかった」

「えへへ、凄いでしょ」

そう、誇らしげに胸を張るいろは。そんな彼女が、隣にいるのに、僕には何故か、何処か遠くにいるような感じがした。




ボートに乗りながら、他愛もない話をして盛り上がっていると、いつの間にか空が綺麗なオレンジ色に染まっていた。

「わぁ……、もう夕方かぁ」

「あっという間だったね」


楽しい時間ほど、あっという間に過ぎる。その言葉の意味が、ひしひしと感じられるひと時だった。


「さあ、そろそろ帰ろっか」

「……うん」

いろはも、楽しかったけどちょっと寂しそうな顔をしていた。

「また次回来れば良いんだよ!楽しみは腹八分がちょうど良い!」

「……そうだね!」


旅というのは、自宅を離れてよその土地へ行き、観光したり体験したりする事。即ち、今回のような遊園地に遊びに行ったりすることだって、立派な旅行なのだ。


「…帰り、混むかなぁ?混みそうだよね?」

「……?まあ確かに帰宅ラッシュの時間帯だな」

「……じゃあさ、その、ね?」

「うん?」

「……て、つなご?」

「……そうだね」


そういえば、昔はよく手を繋いで家まで帰ったっけ。いつからか、繋がなくなってしまったけど。理由ははっきりとは覚えていないけど、確か少し喧嘩してしまった日からだと思う。

そんな事を思い出しながら、僕はいろはの手を握る。すると、いろはは少し間を置いて、俯きながら、ぎゅっと手を握り返してきた。


「どうしたの?具合でも悪い?」

「……ううん。ちょっと、昔のことを思い出したの」

「………」

「手の感触はだいぶ変わっちゃったけど、温もりは全然変わらない、ね。……えへへ」

「……それはいろはもだよ。あったかくて、何処か優しい」

僕がそう言うと、いろははえへへ、とはにかんで、顔を少し赤らめながら、こちらの方を向いて、これ以上ない笑顔を咲かせた。


「涼くん、これからも、ずっと一緒だよ?」

「……おう」


僕は、この笑顔をいつまでも見たいと思った。僕が息潰えるまで、守りたいと思った。

昔からずっと一緒にいる幼馴染は、変わっているようで、その根本は変わらない。

でも、だとしたら。いろはの弱いところも強いところも、沢山知ってる僕が。幼い頃から身近にいる僕が、彼女を一番に支えてあげたい。そんなことを、思う僕であった。


「……あーーっ!?株価下落してる!……もう、ハゲタカは消えればいいんだ!私みたいな人を道具として扱って!」

ふと目を落とした携帯を見て、憤慨しだすいろは。そんないろはも可愛い。


「まあまあ落ち着いて?……あと今度、僕にも株を教えてよ?」

「え?株?……うーん、涼くんがどこか好きな会社がある、とかこの会社がいい!って固執するタイプなら、株では儲けれないかな。今なら、そうだなぁ、為替取引を見て、世界シェアが高い会社は株が高いことはわかる?……なら、低いものだったり、下落してるけど上昇しそうな所を………」


口頭だけではほぼ分からない株の説明を、駅に着くまでの間延々と聞かされるも、全く理解出来なかったので潔く株を扱うのを諦めた僕だった。




ホームに重厚な音を響かせて来た電車に乗ると、まだラッシュに引っかからなかったのか、僕達は席に座れるという圧倒的な人権を得ることができた。


「はぁ〜……。いっぱい遊んだね〜」

「……次同じようなのやる時は、絶対に負けないからな?」

「あのシューティングゲーム?……ふふっ、期待してるネ」

「あー!今バカにしたな!?したでしょ!?酷い!」

「……ふふっ、あはははっ」


ナチュラルにバカにされた。くっそう、そのままナメていやがれ?次こそは絶対に勝つからな!


そんな仲の良い二人を乗せて、電車は沈む夕日を背に受けながら走っていく。

そして、そんな外の景色を窓から眺めながら、二人は同時にこう思っていた。


今この時が、永遠に続けばいいのに、と。



…もうあと少しで、春が来る。

そして、僕達にも、暖かい春の風が吹く。

甘酸っぱくて、もどかしく、中々表にだすことが出来ない、二人の初心な恋心を乗せて。

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