てーまぱーく [3]
「あ〜、美味しかった!」
「……こういうところのご飯が美味しいのって、やっぱり海の家の焼きそばと同じ原理なのかな」
「ナチュラルにdisるのやめよ、いろはさん……」
僕達はお昼をフード街の一角にあるお店、『Gastronomie』で食べた後、休憩がてらメリーゴーランドに向かっていた。
………休憩がてらとは?
まあ、そんなことは気にしないでおこう。にこにこ笑って、超楽しんでいるいろはに水を差すのは野暮ってものだ。
「そういえば、どうしていろはが全部代金払ったのさ?僕だって、それくらいのお金なら全然あるのに」
「でも、裏を返せばそれくらいしかないんでしょ?」
「鋭いご指摘で……」
「…大丈夫、私何だかんだで株とかで稼ぎはあるの。だから安心して?」
「……じゃあ、お言葉に甘える」
「うん♪」
奢られるって言ったら何故か上機嫌になるいろは。僕なんかの為に散財するのがそんなに嬉しい事なのか?……よくわからぬ。
そうこうしていると、目的地であるメリーゴーランド、『ビューティー&ホース』に到着。……これどう考えても『ビューティー&ビ◯◯ト』のパクリでしょ……。
そこまで人気がないのか、僕らはここに直ぐに入る事が出来た。のは良いのだが。
(カップル多すぎぃ……)
なぁんと忌々しい。公衆の面前でイチャつきやがって。許さんぞ、訴訟だ。
というか、僕ら以外全員カップルという事実。証拠にほら、スタッフのお兄さんが忌々しげに見てる。……おいこらお兄さんちょっと待て、僕達はカップルじゃないぞ?違う、無実だ。話せばわかる。
「それではいきまぁーす!」
ニコニコとお兄さんが笑いながら機械をいじる。
そしてそのまま、メルヘンな音楽を流しながら、時計回りに回っていく。
……え、待って僕まだ馬に乗れてない!
ちょっとお兄さん!?ニコニコ見てないで止めて!?ねぇ!僕振り落とされちゃう……………――――
アトラクションが動いている間、いろはが楽しげに馬の上できゃっきゃしていたのに対し、僕は馬の足にしがみついて振り払われないように必死だった。親子が僕を見て「お母さんあの人なにやってるの?」「シッ、見ちゃダメよ」、って言ってたのが聞こえた。何の拷問だよこれ。いっそ僕を殺してくれ。
〜〜〜
「……死にたい」
「あ、あははは……」
グロッキーになってダークなオーラを放ちまくっている男に、その隣で苦笑混じりにフォローしようと奮闘する女の子がいた。何を隠そう、紛れもなく僕達である。
だが、男(僕)はすっとそのオーラを収め、遊園地の地図をばっ、と広げる。
「次はどこに行きたい?」
「きりかえはやっ…」
当たり前だ。切り替えが大事なのだ。時には切り捨てる勇気も必要である。ただし失敗は、次に繋げるために切り捨ててはならない。結果として、僕はこの出来事を一生忘れないだろう。もう嫌だ。
「……そうだ、こことかどう?」
地図のとある場所に指をさして、いろはが提案してきたのはウォータースライダーだった。
「ウォータースライダーか。……でも、水着いるんじゃない、これ?」
「あーこれ、大丈夫みたいだよ。ほら、ここ」
確かに、多少濡れるけど気持ちいいぞ、と書いてある。
「ならここ行きたい!」
「おっけー、行こっか!」
そうして、本日四個目のアトラクション、『ファインディング・ヒーポ』に僕達は挑戦する事になったのだ。……いやこれも「ファ◯ンディング・◯◯」のパクリでしょ。そもそもウォータースライダーでファインディングって、動体視力でも鍛えさせられるのだろうか。
「そう言えば株で儲けてるって言ってたけど、一体今幾らくらい資産あるの?」
「うーん……。ちょっとしかやってないし明確な金額は見てないけど、多分500万はあると思うよ」
「ごひゃくまん」
「別に増やそうと思えばいつでも増やせるし、お父さんから小遣いも貰ったりするし、特に困らないかな」
「はえぇ〜……」
ふと気になって質問してみたが、なんか規格外だった。僕なんて、去年の夏プールの監視員を死にそうになりながら一ヶ月やった(実は正確にはやらされた)のだが、総額10万しか貯まらなかったぞ……。次元が違い過ぎる。
そうこうしてると、僕達はファインディング・ヒーポに到着した。
「あー、身長制限あるタイプだ」
「いろはってそんなにちっちゃかったっけ?」
「ちっちゃくない!この前測ったら157だった!セーフ!」
「……なんかごめん」
完全に地雷を踏んでしまった。まあ、そのちっちゃい所もいろはの可愛い理由の一つだ。
「はーいお二人ですねー、どうぞー」
「こちらのボート、お乗りになられましたらしっかりとベルトを締めてくださーい」
「「はーい」」
言われるままに、僕達はベルトを締める。
……ん?
ウォータースライダー、シートベルトの着用、そして身長制限。
……そうか、思い出した。
「それでは行ってらっしゃーい!」
「しまった僕ジェットコースター苦手だった(^^)」
「……えっ?」
だが僕がジェットコースターが苦手だからといって、勾配が緩やかになるとかそんな超常じみたことは起こらない。
無慈悲にも、地獄へのカウントダウンは止まることは無かった。
「……ぅあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――」
「……きゃーーーーーーーーっ――――」
……後の噂によると、僕達がジェットコースターに乗ったその日、遊園地で行われていた、絶叫声量No. 1選手権の記録を大幅に更新した男が現れたという。
はてさてそれは一体誰なのか。
それは、神と当事者しか知らないだろう。
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