てーまぱーく [2]


儲けが出てるなんて思えない。僕達は、素直にそう思った。


『ヒーポランド』という名の遊園地に僕らが遊びにきてからはや一時間。実は三週間前にオープンしたばかりというこのテーマパークは、やはりというべきかとても混んでいて、まあそれを承知で来たわけだからしっかり一時間待って『アリスインワンダーランド』に満を持して入ったのが10分前。


「結局なんだったんだろう?ホラー?なの?」

頭の上に「?」をいっぱい浮かべるいろはも可愛いな、と思いつつ、僕は率直に思った事を言う。

「いや、あれはコメディだな」

「あー、たしかに」

怖がらせじゃなくて、あれは笑わせにきてるよね、といろはがくすくすと笑う。


「そういえば、この前ホラー映画を見たんだけどね」

「うん」

「名前を『じゅおん』っていうんだけど、意味的には恨みを持って呪ってるんだから勿論ホラーだし、女優の「キャァァァッ!」っていう叫び声もあるし、ここまで一聞すると怖そうって思うでしょ?」

「思うでしょ?とかいろはが言うから思えなくなってきた」


あははは、それもそうだね、と笑いながら、いろはは話を続ける。


「そう、それで出てくる幽霊の子が『よしお』って子なんだけど、とあるシーンでエレベーターの中にそのよしおくんがうじゃうじゃいて、それを見て怖くなったヒロインが『キャーッ!』って叫ぶんだよ。で、よしおくんはそれに共鳴して『キャーッ!』って叫ぶの。ぷくっ、あはっ、もうそのシーンが本当に面白くって面白くって……。リアタイで見てたんだけど、凄く笑いが込み上げて来てね、もう思わず笑っちゃったぁ…ぷくくっ……。実際、ホラー映画じゃなくてコメディ映画としか思えないんだよね〜、あはははっ!」

「…よしおくんは子ども芸人かな?」

「…あはは、かもね〜」


思い出して一人でツボにはまって、そしてそこからやっと抜け出したいろはは、はひー、と乱れた呼吸を整えていた。


「というか僕もすごく気になる。そんなに笑えるホラー映画とか聞いたことない」

「今度レンタルして観よっか。ジュースとか飲みながら、プチ映画上映会だ!」

「お、いいねっ!」


次のアトラクションまで歩きながら、僕達は他愛もない話で盛り上がる。

こうやって、いつも一緒にいて楽しいし、会話が不意に無くなっても、居心地が悪くならないから、いろはって不思議だ。何か魔力的なものでもあるのだろうか。

しかしそんな事を考えているのも束の間、直ぐに次のアトラクションに到着。


「さて……、『DREAM CATCHERs』、ねぇ……。果たしてどんな夢を掴ませてくれるのか」

「……あんまり入る前からこっちで勝手にハードル上げるのやめた方がいいと思うよ涼くん」

「でも名前がなぁ……」

勝手にハードル上げさせる名前なんだよな〜。詐欺ですよ詐欺。新手の。


「……ふむ、普段射撃ゲームやってる僕にシューティングゲーム、相性は良さそうだな」

「水鉄砲かぁ〜。私こういうの久しぶりかもっ」

そう言ったいろはに対して、僕はふとこう思った。

(いろは、何気なくブーメランが自分自身に刺さってるの、分かってるのかな……)


だが。言わない。

そんな無粋な事は……!

彼女には、笑顔のままでいて貰いたい。まあ、ちょっと膨れた顔も可愛いのだけれど。


受付のお兄さんに、何故か張り付いた笑みで「い、いってらっしゃぁ〜い!!」と送り出され、射的場に入ると、二人で水鉄砲を構える。

すると、いろはが不敵な笑みを浮かべながら、僕に宣戦布告をしてきた。


「そうだ!これスコア制みたいだから、負けた方がジュース奢りー!」

「負けた方が……奢り、だと……?」

ふっふっふ、今こそ僕の真の実力を見せる時が来たようだな……。

普段FPSで鍛えまくられている僕のエイム力、とくと味わうがいいわ!ハーッハッハッハ!

「望むところ!いろは、勝負だ!」

「よしきたっ!」


そして、僕達の白熱したバトルが幕を開けた。



僕は、試合前にルールを頭の中で再確認する。


ルールは簡単。とにかくヒーポくん(この遊園地のマスコットキャラクター)を倒しまくるのだ。何というか、この遊園地、マスコットキャラの扱いが酷いな……。そういえばさっきのアリスインワンダーランドでは、ヒーポくん殺されて幽霊になってたし……。


このゲームでのヒーポくんは色分けされていて、白色、青色、金色の三種類のヒーポくんがいる。それを水鉄砲で倒すのだが、それぞれ白が1点、青3点、金色が10点で、2分でどれだけポイントが稼げるかが勝負となる。因みに金色はあまり出ないらしいから、金色は優先的に狙わなければいけない。


『それじゃあ、準備はいいかな〜〜?じゃあいくよ〜〜?いいかな〜〜?いくよ〜〜?』

ヒーポくん(本物)の声が場内に響く。いや準備なんてとっくに出来てるんだからさっさとしてくれよ前置き長くn

『……ゴー!』

え、…はぁっ!?始まり唐突過ぎん!?攻めて3,2,1くらい言おうよ!?

あっもうヒーポ出て来てる!狙い定めて……ああ取られた、次っ……―――






〜〜~



「コクコクコクコクっ……ぷはぁー!なんかいつも飲む紅茶の3倍くらい美味しい気がするよ!」

「……ちぃくしぃょぉぉぉっ…………」


心底美味しそうに午前の紅茶(キャンディー味)を飲むいろはの横で、『DREAM CATCHERs』で夢(お金)を逃すというなんとも哀れな男が地面に平伏していた。そう、言うまでもなく僕である。


「いやぁ、でも正直涼くんがあそこまで弱いなんて、流石に私も思っていなかったっていうか……。普段鍛えてるえいむりょく?とやら、ぜ〜んぜん、役に立ってなかったみたいだね〜?」

「ぐっ……、正論過ぎて何も言えないっ……!」

いしししっ、と白い歯を見せながら意地悪く笑ういろは。

くっそぉ……!いろはこんなドSな表情もするのかよ……!負けたのは悔しいけどなんか嬉しい……!


「普段鍛えてるエイム力は、……そう!指のエイム力だ!指と、……あと手首!今回はちょっと僕のフィールドから外れてたんだ!うん!」

「……見苦しいぞ〜?涼くん♪(ニヤニヤ)」

「うわぁぁぁあぁぁ」


こうして、僕のプライドを犠牲にして、いろはの機嫌をすこぶる上昇させた、まさに命懸けのシューティングゲームは幕を閉じたのだった。




小休止を終え、僕らは再び次のアトラクションに向けて出発した。

「涼くん、次どこへ行く?……あっ、もうお昼だ」

「じゃあこの…が、がすとろのみ?ってとこにする?」

「『Gastronomie』、ね。フランス語で美食って意味。いいよ、そこにしよっ!」

(綺麗なフランス語だなぁ)

いろはって、一体何ヶ国語くらい操る事が出来るんだろう?そんな疑問が、僕の頭をふとよぎった。

でも同時に、幼い頃から何時も一緒に居たからって、いろはの事を知り尽くしている訳では無い。そう、僕は勘違いしていた事に気付かされたのだ。

そしてそれは、いろはが僕の事をどう思っているのか、と同じくらい、不鮮明で、当分分かりそうにない疑問だった。


でも、今此処で楽しげに笑う、いろはの笑顔は紛れも無い本物で。

だから、せめて今だけは、『こんな事水に流して楽しもう!』、と思った僕であった。



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