《鬼》はまだ其処にいたのです

鬼とは果たしてなんなのか。時に鬼は精霊として語られ、時には物の怪の類とも綴られる。或いは、朝廷に服さぬ民族が鬼と蔑まれ、排他されたとの考察もされているが、鬼の素性を知り及ぶ者はいない。
こちらは鬼の伝承をたどる民俗学者が体験した、様々な話を書きとめた短篇集でございます。鬼の素性はやはり知れず、されど鬼の素顔というものは窺えます。

邪気のない者には優しく、其方の領域を侵す者には恐ろしく。草木万象を友としながら、ふらりと都会の雑踏にも紛れこむ。
輪郭のおぼろな隣人。
それを愛おしく眺め、記録する民俗学者のまなざし。
筆の走る音まで聴こえてきそうな、繊細な備忘録のような書をめくれば、確かに其処に鬼が息衝いています。
まだ三篇ですが、充分に読みごたえがあり、しっとりとした余韻を残してくれます。春のぼんやりとした夜のおともに如何でしょうか。