あまりに完璧なキャッチコピー

舞台は、IT化が発達した未来。主人公たちは仮想世界に発生して家電製品や公共設備に悪さをする敵、「バグ」を退治するために、電脳体となって武器を携え「デバッカー」として、仮想世界へと飛び込んでいきます。武器は「アームズ」と呼ばれ、仮想世界でイメージすることで使用可能となります。

…………かなりざっくりですが、あらすじはこんな感じです。どうでしょう、かなり王道といった具合で、なんだかゲームみたいで、わくわくする設定ですね。さてここでこの作品のキャッチコピーをご覧ください。

「まきびしでバーチャル空間を生き残れ!」

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主人公、札井夢幻。良い意味でも悪い意味でも、飾ることを知らない普通の女の子です。心の声には棘がありますが、意外にも真っ直ぐで頑張り屋。放たれるボケはぶっ飛んでいて、ツッコミは鋭いです。しかし、本当に鋭いのは仮想世界で彼女が使用するアームズの方。バグとの戦いに用いる彼女の武器は、なんと「まきびし」です。「まきびし」なんです。あの、忍者が逃げるときに地面にばらまくヤツです。刀でも銃でもでもありません。そんな主人公います?

いかにもな設定でありながら、その本質はコメディ。笑いあり、なんてもんじゃありません。つむじから爪先まで笑いで埋め尽くされています。どこが面白い? と聞かれて答えるのがめちゃくちゃ難しいです。強いて言うなら全部。一行に一度は笑えるポイントがあるのではと思いますね。言い過ぎかもしれません。

またタグに百合とあるとおり、この作品では女性同士の恋愛も描いています。が、偽らずに書いてしまうと序盤では少しその描写は薄めというか、ギャグが濃すぎるあまりに百合がおざなりになっている感が否めないかもしれません。ですが読み進めていく内に進展していく主人公とヒロインの関係は紛う事なき百合であり、莫大な火力で投下されるギャグの中で示される繊細な想いの表現は非常に「映える」ものとなっています。

小説を読んでいるはずなのに頭にはイラストか動画が浮かぶような、こちらが想像力で補わなくても力業で理解させようとする文章と言いますか。「読みやすい」とも「鮮明な情景描写」とも違う、なにかこう、不思議な文体の小説です。勿論どちらも正しいのですが、どうもそういった分かりやすい部分が作用しているようには感じないというか。

長めの作品って、どうしても世界観の説明であったり関係性の提示であったりとかで、どうしても退屈になってしまうお話が生まれてしまうものだと思うんですけど、この作品にはそれが無い。矢継ぎ早に放たれるボケとツッコミの連続で、もうどこを読んでも退屈が生まれません。

一話ごとの文字数は控えめですが、それにしてもこの話数です。こりゃ読むのには気合いが必要かな、と気負うのも最初だけ。いつの間にか次、次、とわんこそばもビックリのペースですらすらと読めてしまいます。これは長編小説でありながらも一話ごとの起承転結がしっかりしているからだと思いますね。
それぞれの話にはっきりとした「オチ」が用意されており、しかもそのどれもが非常に秀逸。その話全部最後の一文のための前フリだったのでは? と疑いたくなるような話もあります。このおかげで「どこで読むのを中断しても問題ない」且つ「どこから読んでも面白い」という構成になっています。

まぁ実際に読み出すと、毎話見所だらけで退屈が無すぎる故、中々読むのを中断できないんですけども。寝る前にちょっと読もうかな~~~、なんて軽い気持ちで読み始めると、痛い目を見ると思います。時間があるときを選ぶとか、「今日は何話まで!」と決めて読んだりとかするとよいのではと思います。

というよりこんなに長いレビューを最後まで読むくらいならさっさと一話に目を通すべきだと思います。さぁ読もう。

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