第5話 好奇心

ハァ...ハァ...


「・・・さん?どうしたの・・・?」


ハァ...ハァ...


「なっ、何っ!?」


「ハァ...、フェネック...」


「ちょっ...どこ触ってるのさっ!っ、きゃ!?」


ハァ...ハァ...


「・・・くださいっ!!」









「はっ!!」


思わず起き上がった。


「はぁ・・・はぁ・・・」


夢で良かったが・・・、息が乱れたのは初めてだ。

僕はもの凄い悪夢を見た。


あの怯えた目が脳裏に焼き付く。


「フェネックさん・・・」


アレは、僕自身の欲求なのだろうか。

それとも、夢が作り出した幻なのか。


どちらにせよ、僕にとっては悪夢でしかない。


寝る前に置いた白い鞄の中を開けて、見ると中には青く光る固形物。

サンドスターだ。


(これを、当てれば・・・)


衝動的に瓶のふたを外し取り出して眺める。


僕はそれを手に握りしめたが、直ぐに瓶に戻した。


(また・・・、記憶を失うかもしれない・・・)


そこで躊躇いが生まれてしまった。

セルリアンの時のトラウマが蘇る。


(君を・・・、忘れたくはない・・・)







あの本をもう一度読んだ。

あの夢で僕がやろうとしていた行為・・・


僕は最低だ・・・。









なんか、かばんさんが最近もの凄く落ち込んでいる様に見えるのだ・・・

フェネックは何か知ってそうだけど、全然教えてくれないのだ...

サーバルは何も知ってないのは態度からわかるのだ・・・


(ぐぬぬ...、アライさんは中途半端にしか知らないのだっ!

自分一人で突き止めてやるのだ!)








2日後・・・


僕は目が覚めっ...


「えぇっ!!」


目を開けたらアライさんの顔がどストレートに。

もう訳が分からない。


「おはようなのだ」


おはようで済むレベルか・・・?


「ど、どうしたんですか・・・」


「アライさんはかばんさんが心配なのだ!

でも、隠してるから、何を隠してるか探るのだ!!」


(僕の日頃の悩みが顔に出ていた・・・?

いや、それはともかく、アライさんまで首を突っ込まれると厄介だ)


「いや、僕は何も隠してないよ。本当だからさ」


「・・・そうなのか?」


少し不服そうな顔をしている。


「何も無いですよ。本当・・・」


「じゃあ、アライさんは今日一日ずっとかばんさんから

一時も離れないのだ。何も無かったら、それで納得するのだ」


「それで、納得するなら・・・、まぁ・・・」


(やれやれ・・・)






その言葉通り、本当に一緒に行動した。

でも、人は賢い。侮るなかれ。

僕は完璧に秘密を隠し通した。





ぐぬぬ・・・!!全然わからなかったのだ!!

一体何を隠しているのだっ・・・!!


「ねぇねぇ、アライさん~、一体どうしたのさー」


「かばんさんが何か隠しているのだ・・・、それを知りたいのだ!」


(どうしよう。言い訳でもしておこうか...)


「アライさん。かばんさんは何も隠してないよ。考えすぎだって」


「....」


(絶対そんなはずないのだ!!ぜーったい何か隠しているのだ!!

寝ずに見張るのだ・・・。何か手がかりがつかめるはずなのだ!)









とは思ったけど、昨日も一昨日も、寝ちゃったのだ・・・。

だけど今夜こそは、絶対に起きてるのだ。



かばんさんに動きがあったのだ!

けどこんな、夜遅くに一体何をしてるのだ・・・?



「....ッ」



何してるのだ...?



パキッ...



「...!!」


「あっ...」



「・・・アライさん」


「・・・・のだっ」


フェネックが肩入れしていたとしても、

彼女がこんなに粘り強いとは、思わなかった。

僕はいつの間にか、近くの木に彼女を追いやっていた。


「・・・この事は絶対に誰にも言わないでください」


しかし彼女は黙ったままだ。

まるで、セルリアンと遭遇した時の様な顔をしている。

彼女の顔を無意識に見つめた。


すると何故か、唐突に僕の脳内に一つの企みが芽生えた。


「アライさん、お願いします」


「え・・・?」


きっと、僕はサーバルやフェネックを、汚したくは無かったんだろう。

最終的に、自己の中で“どうでもいい物”を生み出した。

自分勝手だ。

残念ながら、僕の元の性格がコレなのかもしれない。


一瞬は複雑な気持ちがあったが、自分自身の行いは直ぐに正当化できた。


““本能”に従う事も重要だと思うな...”


フェネックの言った言葉だ。

サーバルを守るために、何かを犠牲にしなければいけない。

これは自己防衛本能だ。


しかし、僕は一体どこまで戻り続けるのだろう。

終わりはないのだろうか。


けど、アライさんが僕についてもう首を突っ込む事は無いと思う。

それは、僕にとっては好都合だ。


彼女は話そうにも、話せないだろう。





好奇心って、怖い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る