男の子になったかばん
みずかん
第1話 旅立ち、そして
僕は一度、黒セルリアンに食べられた。
だけど、パークのみんなが助けてくれた。記憶も失わなかったのが、不幸中の幸い。サーバルのことも、ちゃんと覚えてた。
僕は、ごこくへ行くことを決めた。
パークのみんなが反対することは無かった。
船出の日の早朝。
港からほど近い、ロッジに泊めて貰っていた。
朝日が昇りきらぬ中、寝ていた僕に対して、突然、トントンと誰かに肩を叩かれた。
「起きるのです」
その声で薄目を開けると、ワシミミズクの助手がいた。
「...?じょしゅ...さん?」
「図書館に来るのです」
そう言われて、身体を掴まれた。
助手は小柄な体をしているのに、持ち上げる力は強かった。
「うえ?なんで...」
変な返事をする。
「博士がどうしても、調べたいことがあると言うので...。早く用事が終わるかはあなた次第ですから」
そう言うと助手は僕を連れて図書館へと
飛びだった。
「博士、連れてきました...」
「ご苦労なのです。助手」
僕はまだ眠気がとれていない。
ここに連れてこられた理由も全くわからない。
「なんですか...」
目を擦りながら尋ねた。
「かばん、いいですか。心して聞いて下さい。今からある“検査”をします。
もしかしたら、ショックを受けるかも知れませんが、パニックを起こさないようにして下さい。落ち着くのです。いいですね?」
博士の喋り方からは独特の緊張感が伝わって来た。
そう言うと助手が近づき耳打ちをした。
「...しかし博士、本当にやるんですか?」
「助手、これはかばんの為でもあるのです。
我々に覚悟が無くてどうするのですか」
「そうですよね...。博士が仰っていた事が本当かどうも、確認出来ますからね」
二人は息の合った様に肯いた。
しかし、僕はまだ夢の中にいる様な感覚であった。
博士達は僕に近寄り、服を手で掴んだ。
「何をするんですかぁ....」
「行きますよ、助手」
「了解です...、博士」
心の中でカウントを始めた。
(3…、2…、1...)
「ええっ!?」
僕はそのタイミングでハッキリと目が覚めたのだ。
「ハァッ...ハァー...、は、博士...」
「かばん...、言ったじゃないですか...パニックになるなって...」
「だ、だって...、い、いきなりあんなことされたら誰だってああなりますよ!」
初めて他人に対して怒りを覚えたかもしれない。
「しかし...、これでハッキリしました。的確なアドバイスをあなたにする事が出来ます。取り敢えず、椅子に座ってください」
博士はゴホンと、咳払いをした。
言われるがままに、椅子へと誘導され、
渋々、席についた。
「まず、経緯からお話させて頂きます」
博士はそう前置きを置くと、一息ついて
話し始めた。
「あなたはセルリアンに食べられました。フレンズがセルリアンに食べられるとどうなるか、ご存じですよね?」
「記憶を失くして、元の姿に戻る...」
淡々と答えた。
「私は、不思議に思ったのですよ。
何故セルリアンに食べられたのにその“食べられた時”の症状が出なかったのか」
「そこで、私と博士で、改めてヒトについて調べつつ仮説を立てたのです」
「仮説...?」
博士は長く目を閉じてから、再度開いた。
「髪の毛にサンドスターが当たって
フレンズになったあなたは、セルリアンに食べられました。しかし、本来ならば髪の毛に戻りますが、“遺伝子”だけは
セルリアンは元に戻せなかった」
「“遺伝子”は簡単に言えば、ヒトや我々の元の元の姿みたいなものです」
助手が補足を入れた。
「常に構築されたあなたの身体が元の姿だと、セルリアンの物質が誤認した可能性があるのです」
そう言われても、あまりピンと来なかった。
「しかし、本題はここからなのです」
助手の声で意識を博士の方に戻された。
「サンドスターが吸収されてしまったアナタはもうフレンズでない...、髪の毛の持ち主から出来上がった人間になったのですよ」
「先ほど、ヒトに関しても改めて調べたと言いました。すると、人間には
“男”と“女”があるそうです」
助手はチラっと隣の博士を見た。
「それで、先程確認させてもらいました…。かばん、本当のアナタは...」
「“男”なのです」
真面目な顔付きで博士に言われたが、
僕はきょとんとしたままだ。
「あの、そう言われても...
違いが...よくわかんないです...
何が違うんですか?」
単刀直入に言った僕に対し、
博士は深い溜息を吐いた。
「身体の構造も違いますし、考え方も違います...」
「詳しくは、この本を読むといいのです。あなたにお貸しします」
渡されたのは、ヒトについて書かれた本だった。
「さて、色々言われて理解が追い付いていないと思いますが...」
「全然追い付いてませんよ!」
僕はムキになって言った。
「助手、例のものを」
「はい」
助手が立ち上がり、どこかへ行った。
「さて、かばん。あなたはサンドスターが不要になった身体になった事に変わりはありません。となると、問題が起きます」
「今度は何ですか...」
呆れた様な言い方をした。
「フレンズだった時の体と違い、
色々な弱い所が増えると思います。
たとえば...、サーバルとの接し方。
今までとは多少、お互いの意思疎通が難しくなるかもしれません」
「僕と、サーバルが?」
そう言い返した時に、助手は一つの瓶を持って戻ってきた。
「かばん、これは“サンドスター”です。研究用として取っておいたのです
これを渡しておきます」
助手は瓶を差し出した。
「これをどうするんですか?」
「もし、あなたが“フレンズ”に再びなりたいと望むなら、これを誰かにぶつけて貰ってください」
助手は端的に説明した。
「今まで意図的にフレンズ化を試みた前例はありませんが...、理論上は可能なはずです。しかし、もしかしたら再フレンズ化すると、奇跡的に失わなかった記憶を失う可能性もあります。
これから、この姿でいるのか
それとも、フレンズでいるのかは、
あなたに任せます」
いきなり言われた事に対して受け入れる事も出来なかったし、わからない事が多すぎる。すぐにどうすると指針を示すことは不可能だった。
「僕は、どうすればいいんですか...」
「我々が答える訳ないのです」
「あなたの人生なのですから」
言いたいことだけ言われ、最終的に
釘を打たれた。
「...取り敢えず、僕はごこくへ行きます」
改めて、その意思表示を彼女達にした。
その後、助手がロッジまで送ってくれた。
そして出発の時間、
フレンズ数人に見送られつつ、僕はきょうしゅうを出発した。
博士の言う事を全て鵜呑みには出来なかった。その理由は自分がよく知っている。確かに、自分はもうフレンズでは無いかもしれないが、殆ど姿は以前のままだし、困るような事も無い。
本を貸して貰ったが、読まないと思う。
僕は今まで通りサーバルの親友として
やってけるはずだ。
まあ、サーバルはきょうしゅうに残れって言ったんだけど彼女の性格を考えれば...
「ストーップ!ストーップ!!」
ゴンッ!
「サ、サーバルちゃん!?」
こうなるんだろうけど。
「かばんは大丈夫ですかねぇ...」
遠くの海を見つめながら、助手は腕を組み独り言の様に言った。
「いや、あの調子だといずれ...」
博士はその問に答えつつも後半、言葉を濁した。
そして、その言葉を取り消すように咳払いをした。
「まあ、万が一の時はよろしくと、
“アドバイザー”に頼んでおきましたから...」
「アドバイザー...」
ゆっくりと、助手は復唱した。
みんなが行った後の港。
木の桶を改造した船で二人の後を追う者達が、この地を去ろうとしていた。
「かばんさんを追いかけるのだ!!
フェネック!!」
「はいよー」
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