第2話 君の寝息

ごこくに着いて最初の夜。


午前中は船に改造したバスがトラブって

大変だった。しかし、“マイルカ”という

フレンズの力を借りて何とか、ごこく

本土の土を踏むことが出来た。

もうごこくに着いた時は日が暮れていた。


バスは船にしてしまったので、新しく

バスを見つけよう。

明日の目標はそれだ。


サーバルと共に僕は砂浜に引っ張り上げた船で眠りについた。


きょうしゅうで何度もやった事だ。


スゥー...、スゥー...


サーバルが寝息を立てる。耳元で。


彼女の息が僕の頬をかすめる。


スゥー...、スゥー...


何故か、目を開ける。

不意にサーバルの顔を見た。

安心したかのようにぐっすりと寝ている。

そして、視線は、微かに動く胸元に...


(って、いやいやいや....)


直ぐに顔を見直し、現実を遮る様に思いっ切り目を閉じた。


しかし、視界は真っ暗だが、サーバルの寝息が聞こえる。


スゥー...、スゥー...


寝息が夢の世界への扉を固く閉ざしている。


イヤになってサーバルに背中を向けようとした。

寝返りを打ったら....


バタン!


「...ってて」


寝ていたのが椅子の上である事を完全に失念していた。


(だけど...、なんでサーバルが...、

すごく、自分とは全く別の、

“特別なモノ”として見えるんだろう)


ハァという重苦しいため息を付いた。


サーバルの寝息のせいで眠れなくなった

海風にでもあたりに行こうと思い、海辺へ出た。


月明かりに照らされた、大海原を見つめる。遠くに黒く霞んで見えるのは

きょうしゅうの地だろうか。

水平線にそってじっと海上を見つめていると変なものを目撃した。


(ん...?)


黒い影が沖からこちらへと向かってくるではないか。



「かばんさーーん!!!!!!」



「えっ...」









手製の船で渡ってきたのはなんとアライさん一行だった。彼女達の行動力には度肝を抜かされる。

浜に到着するのを僕はただ、唖然として眺めていた。




「ど、どういう...」


「アライさんもかばんさんと旅がしたくなってついて来たのだ!」


アライさんらしい理由で納得せざる負えない。


「私はアライさんについてきただけさー」


フェネックの理由も納得するしかない。


しかし...、個人的にこの状況は喜ばしいとは言えない。


(ただでさえサーバルの事で変な気がしてどういう風に対応すればわからないのに...)


「無事に出会えて良かったのだぁ!」


満面の笑みを浮かべるアライさん


「あ、あはは...、会えて良かったよ…、ふ、二人とも...」


頭の後ろを掻きながら、微笑した。


その様子を、特別な目付きでフェネックは見つめていた。





かばんが出航した直後。

フェネックとアライさんは、船でごこくへ渡る準備をしていた。


そこへ、博士がやって来た。


「あっ、博士なのだ!」


「ごきげんようなのです。

フェネックに用事が有るのですが、

少しいいですか?」


「アライさんは大丈夫なのだ」


「んー?どうしたの?」


博士は近寄って来たフェネックに対し、

肩を持ってアライさんから少し離れて小声で話し始めた。


「フェネック、あなたに頼みたい事があるのです」


「なに?」


「かばんの面倒を見てください」


「え?なんで私が?」


「それはですね...」


かばんの異変をわかりやすく端的に説明した。


「フレンズじゃなくなった?それ本当なの?」


信じ難い内容で思わず耳を疑った。


「ええ、一応その事を本人に伝えましたが、どうやら納得いってないみたいで

あなた達の中で頼れるのはあなたしかいないのですよ、フェネック」


確かに、サーバルは此処にいないし、

アライさんは適任ではない。


「うん...、それはいいけど、私は何をすればいいのかな?」


「これは推測なのですが、恐らく、

サーバルとかばんの間に溝が出来ると思うのです。それを、埋めてほしいのです」


「...仲直りさせる役?」


フェネックはしっかりと博士の目を見た。


「ざっくり言うと...

しかし、ヒトの心は複雑なのです。

それも、我々フレンズとは全く別になると...」


「多少厄介だね」


息を吐くように本音を言った。


「ですが、フェネック。

あなたには、道に迷ったかばんを

“正しい方向”へ導く素質があると、

島の長である私の野生の勘が言っているのです」


「正しい方向ねぇ...、まあ、何とかやってみるよ」


「頼むですよ」






(まぁ、暫くは様子見だね...)


フェネックは心の中でそう決めた。


(はぁ...、友達3人と寝るようになるだけなのに、どうしてこんなに気が重いんだろ...)


かばんは心の中で落胆するのであった。

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