第3話 君との距離

かばんちゃんどうしたんだろう?

どうして私から遠ざかるのかな?

ごこくに来て何週間か経つけど...

寝る時は一緒なんだけど、

起きると遠ざかってるんだよね


私何かいけないことしたのかなぁ...?






博士が言っていた通り、僕とサーバルの

意思疎通が難しくなってる。

読まないと思ってたけど、ここ最近身体にも違和感を覚えてきたからやむを得ず

助手に渡された本を読んだ。


今の自分の状況と本の情報を比べると、博士の言った通りだった。


僕は....


フレンズじゃないし、

サーバルと別の存在になっていた。


ヒトの世界では、とっても仲の良い二人の男女をカップルとか、恋人とかいうらしいけど、僕はそれが何となく嫌だった。だから、普通の友達の関係がいいんだけど、それが何故か以前のよう上手くいかない。口数は少なくなり、少し距離を置く時間も多くなってきた。


(僕がしっかりサーバルと接しないとダメなのに...、なんで、怖がってるんだろう。何が...)


ふと、そこで気付いた。

僕の今の現状をサーバルに伝えてない。


それが、ボトルネックになっていた。


伝えれば、楽になるかもしれない。

けど、怖い。


サーバル側の問題だけでなく、自分側の問題もあるからだ。


自分自身の“身体”がサーバルを...


友達が...、友達じゃなくなるのを恐れている。








ここ何日か様子を見てるけど、博士の言った通りだ。二人の間には“溝”が出来てる。私の役目はその溝を埋めることだけど、一筋縄じゃ行かなそう。

これは大胆な作戦が必要かもしれない。


まずは、かばんさんの気持ちを聞き出さないと。

その為には舞台が必要だね。








「ここって...」


ゆきやまちほーにもあった“温泉宿”


何でこんな最悪なタイミングの時に

ここを通ってしまったのだろう。


バスを見つけたのはいいがルートが悪い。だからラッキーさんは使えない。


「ねぇねぇ、ここで休もうよ」

そう言ったのはフェネックだった。


「えぇ...」










「かばんちゃん、一緒に入ろうよ!お風呂!」


これだから嫌なんだ。


「え、えぇっと...、いいよ、僕は...

は、入るならさ、サ、サーバル...ちゃんだけでいいから...」


そう言うと不服そうな顔をした。


「えー …、なんで?」


「なんでって、その...

ほ、ほら、えっと、なんか、あまり気分じゃないんだよね...」


言い訳は慣れていない。

下手な言い訳だ。自画自賛出来ない。


そんなやり取りをしていると、フェネックが間に入った。


「かばんさんだって、体調とかもあるしさ、サーバルもかばんさんの意見を尊重してあげなよ」


「...」


サーバルは黙っていた。

僕はフェネックの助け舟で何とか一緒に入浴は回避出来た。










「私、やっぱりかばんちゃんに

嫌われてるのかな...」


そんな愚痴をこぼした。


「なんでそう思うのさ」


フェネックは背後からそう問いかける。


「だって、最近私とあんまり喋んないし...、少し離れてるっていうか...」


「あー...」


態と間延びした声を出した。


「それは、博士に教えて貰ったんだけど、思春期ってやつだよ」


「なにそれ、ししゅんきって」


「ヒトは色んなことに対して色々考え過ぎる時期があるのさ。かばんさんはきっとそれなんだよ」


「だったら私に相談してくれればいいのに...」


「かばんさんはサーバルのことを大事に思ってるから考え過ぎるのだ。

サーバルを嫌ってなんかいないのだ!」


温泉に浸かるアライさんに向かってフェネックは親指を立てた。


「そうだよ。今はそっと見守っててあげよう」


「そういうことなら・・・」











僕はサーバルやフェネック達が寝たのを確認して温泉に入りに来た。

自分の身体を確認しようと思ったし、

一人になりたかった。


温泉は屋根がない。

露天風呂と言った気がする。


風呂に入って考えようとするけど、いい考えは浮かばない。


その時だった。


(...!誰か来た!?)


「やあ」


遠目で確認すると、僕は反射的に顔を水面に沈めた。


(なななんでっ!)


「ガハッ...」


「なんでそんな驚くのさ」


水面から顔を上げると何故かフェネックがいる。


「あっ...えっ...や...」


なんて言えばいいかわからない。

僕には目を逸らす事が精一杯だった。


結局、目を閉じながら話す。


「な、なんで...」


「いや、かばんさんの気持ちを聞こうと思ったんだけど…」


(これは...、不味かったかな?)


「き...、気持ち?」


「博士に言われたんだよね。色々と」


僕は一旦空を向き目を開けたあとまた閉じた。

お湯の中に入る音がした。

個人的に気まずい雰囲気の中で

先に喋ったのはフェネックだった。


「サーバルと今後どうありたい?」


「と、友達でいいです...」


ヤケになった様に言った。


「...気持ち的に?」


フェネックは確かめる様に聞き返す。


「そ、それ以外のな、何があるんですか!」


「いや、もっとこう...

サーバルを愛したいとかさ...」


「なっ...」


一瞬、言葉を喉に詰まらせた。


「ぼ、僕にそんなっ、下心はないです!」


「別に恥ずかしいコトじゃないよ

私だってアライさん愛してるもん」


深い溜息を付いた。


「フェネックさんは、“女の子”だから

そう簡単に言い切れるんですよ…」


「かばんさんは勘違いしてるよ。

私達、元々は動物だよ?

本能のままに生きてた…、オスメス関係無くね」


「...はい?」


「ヒトは自分と違う存在について深く考え過ぎなんだよ。

“本能”に従う事も重要だと思うな...」


(本能に従う...?)


「それに、サーバル、寂しそうだったよ。あの子の気持ちも考えてあげて。

見かけよりも、傷つきやすいからさ」


「...」


僕は黙ったまま何も言えない。


フェネックは立ち上がると、お湯をかき分けながら風呂を出た。


「...のぼせないようにね」


彼女はそう一言残し、戻って行った。


(本能か...、僕の心は友達のままがいいけど、身体は...、サーバルを欲しがってる)


言葉で形容するなら、そんな感じだ。


「傷つけない...?

無理だよ...、そんなの...」


(こんな身体はイヤだ)


“サンドスターを当ててもらえば、元の身体に戻る。けど、記憶を失うかもしれない”


(もし僕が、サーバルを忘れたら...)


“食べないよ!”


(サーバル....ちゃん...)


“へっへーん!かばんちゃんはすっごいんだよ!”


(僕は...君を...)


“かばんちゃん!!大好きだよ!!”


(...汚すかもしれない)


“身体の本能”が、水面に波紋を作っていた。

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