第2話 憧憬
「ショウガッコウ。確かこの世界のガキが頭を良くするために通う場所の1つだったか。だとすれば、あいつも、光もその場所にいるってことか! まずい、光が危ねぇ!!」
無差別に人間の世界が襲われる中、今度は光の通う小学校が襲われていた。ラジオでそのことを知ったブレイブレオは、半獣人体に変身すると現場に向かった。そこでは、人々が組織の戦闘員達に捕われていた。
「ククク、戦闘員共さっさとこのガキ共を組織の科学者達に引き渡せ。それで、今回の任務は完了だ」
そう言って、戦闘員達に指示するオオカミ獣人。
「待て、獣人!!」
「貴様は裏切り者の半端者! また邪魔しに来たか」
「そこの人間のガキ共をどうする気だ?」
「知らないね。俺は首領の命令でそこのガキ共を組織の科学者達の元へ届けようとしているだけだ。その後、ガキ共がどうなるかは知らん。組織の科学者連中のことだ。人体実験にでも使う気か、それとも単純に我らの食料にするつもりか」
「……許さねぇ!!」
自身が認める人間を軽く扱う獣人に怒りのままに突撃するブレイブレオ。
「させるか、アイスクリスタル!!」
片手をブレイブレオに向け、無数の氷のつぶてを飛ばすオオカミ獣人。しかし、ブレイブレオは自身に向かってくるそれらを拳で砕き割る。だが、無数に向かってくるそれら全てを砕くことはできず、ブレイブレオの身体には無数の切り傷がつく。
「くっ、この単純馬鹿め! ならば、これならどうだ! アイスパーティクル!!」
そう叫んだオオカミ獣人は全身から強烈な冷気を全方位に放つ。
ブレイブレオには、円形の強固なバリヤーを作り出し対象を守る能力があったが、その能力の使用は1度の使用につき1カ所が限界であった。ブレイブレオは小学校の子供達、教員達に片手を向けバリヤーを展開したが、その代償として自身がオオカミ獣人の強力な冷気をまともに浴びてしまう。
「ぐっ、ぐぉぉぉ……」
どんどん身体が凍り付き、最後には完全に氷漬けになってしまうブレイブレオ。
「所詮は半獣人。我ら獣人の敵ではない。さて、人間共の連行を再開……」
「ま、待て! オオカミ野郎!!」
そう言ってブレイブレオは全身にエネルギーを行き巡らせ、身体中から強烈な熱を放ち始める。ブレイブレオにはもう一つの能力として、常人を凌駕する身体能力、バリヤー能力の他に炎や熱を操る炎使いとしての一面があった。強力な熱気でブレイブレオは自身を覆っていた氷を完全に溶かしてしまう。
「残念だったな、俺には冷気を操る攻撃は効かねぇ!」
敵の攻撃を無力化したブレイブレオは、傷ついた身体で静かにオオカミ獣人に近づく。自身の攻撃を完全に無力化する敵を前に後ずさるオオカミ獣人。
「く、来るな! 半端者風情が!!」
その言葉を無視し、オオカミ獣人に近づいたブレイブレオは彼の顔を思いっきり殴り飛ばす。
「今の一撃は俺の大切なものに手を出した礼だ! お前の最も嫌う炎で地獄へ行け!! フレイムバレット!!」
ブレイブレオは両手を頭上に向けると、巨大な炎弾を作りだしオオカミ獣人に放った。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
自身の最も苦手とする炎の攻撃をまともに受け、オオカミ獣人は炎の中光の粒となり消滅する。
「……そうさ、どうせ、俺は半端者だよ」
密かにそうつぶやいた彼は、自身の守る者達の無事を確認すると密かに安堵する。
「おい、大丈夫か?」
小学校の子供達、教員達にそう一言問いかけるブレイブレオ。だが、彼の問いに対する返答は無く、彼は自身に向けられる恐怖の視線を感じる。元々破壊者の先兵としてこの世界に現われた彼である。人間達の恐怖は当然の反応だ。
(人間達から見れば、俺は獣人達と同じ化け物。当然の反応か……。だが、それでもいい)
孤独を感じる自身の心を振り払い、彼は戦場となった小学校の校庭を後にする。そんな孤独な戦士を1人の少年が彼を止める声も聞かず、追いかける。
「ライオンのおじさん!」
校庭を出てしばらく歩いた所で、ブレイブレオは自身を呼ぶ声に振り向いた。声の主は、ブレイブレオが人間を守る理由を作ったあの少年、光だった。
「何だ?」
「ライオンのおじさんは、何で俺達を守ってくれるの? 獣人の仲間なのに。こんな傷だらけになってまで、何で?」
獣人の仲間としか見えない異形のヒーローに当然の疑問をぶつける彼。そんな少年に対し、ヒーローはわずかな笑みを浮かべ答える。
「前にも言っただろ。俺はお前の強さを気に入ったんだ。だから、お前達人間を守る。それだけだ」
「俺は……全然強くないよ。学校でもいじめられてるし。おじさんみたいに、獣人の攻撃に突っ込んでいくことなんて出来ないよ」
「力があるやつが戦えるのは当然だろ? だがお前は、俺みたいな力も無い人間なのに、俺から逃げなかった。それは誰にでも出来ることじゃねぇ!」
「……」
「それと、俺は獣人の仲間じゃねぇ。獣人と人間の間に生まれた半獣人だ」
「……おじさんの他に半獣人っているの?」
「……わからねぇ。だが、俺は半獣人だからって自分から逃げたりしねぇ。自分が半獣人であることを恨んだりしねぇ。そうやって逃げていたら今の自分にはなれなかったからな」
半獣人であることに暗い気持ちを抱きつつも、自身が信じる強さを誇るブレイブレオ。
「おじさんは強いね……」
「安心しろ、お前だって十分強い! 俺が認めたんだからな! じゃあ、またな」
そう言って、立ち去るブレイブレオを見送る光の心にはブレイブレオに対する憧れが芽生え始めていた。
(強いなぁ、ライオンのおじさんは。俺もおじさんみたいに強くなりたい!!)
少年はまだ、ブレイブレオの認める自身の強さに気がついていなかった。少年に人間の守護を誓った異形のヒーローと、そんなヒーローに憧れを抱く少年の物語は今動き始めた。
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