第12話 人質
(……俺は、心のどこかで期待していたのだな。奴となら、わかりあえるかもしれぬと。だが、奴は俺が今まで出会ってきた人間共と結局同じだった。どの連中も、俺の上辺しか見ずに俺自身を全く見ようともしない)
夕焼けに照らされた、光の住む街のとある公園。そこに彼と共に戻ってきたタイガーアベンジャーは考えていた。タイガーアベンジャーはそんな人間達、同胞であるブレイブレオに対する怒りを感じるが、それも今までの経験を思い出す中で諦めの気持ちに変わる。
(ふっ、何を今更……。あの時から、わかっていたことではないか。あのような醜い姿を見せる人間共、そんな人間共を守り続ける奴とは最初から分かり合えるはずがなかったのだ。愚かな期待をしただけ、ただそれだけのことだ)
「虎のおじさん、どうしたの?」
思い耽っているタイガーアベンジャーに体を向け光は声をかける。タイガーアベンジャーはブレイブレオの友である少年、その守るべき価値を未だ見出だせない人間の1人である少年に向かい合うと怒りと疑問をぶつける。
「……なぜ、お前達人間は異端の存在を差別し、迫害する? 数で勝る者が常に強く、正しいわけではないというのに。異端の存在にも貴様らと同じ『心』があり、『痛み』があるというのに!! なぜ、その者達を『見よう』としないのだ‼」
「……あまり言いたくはないけど、それは人間が、弱い人達をいじめることで自分の方が上だって思って嬉しいからとか、相手の力や見た目が怖いからとか、色々理由はあると思う」
「弱者を傷つけることで優越感に浸り、強者は恐怖から数で排除するというわけか!! つくづく救いようの無い種族だな、人間は!!!」
「……でも、確かにそうかもしれないけど、人間は変われるんだよ‼ 俺だって最初はライオンのおじさんが怖かったよ。それに、自分はただ弱いだけの人間なんだって思ってた。でも、俺は今こうして自分の強さを教えてくれたライオンのおじさんと友達になってる。失敗しても、人間は変われるんだよ‼」
「人間共の愚かな失敗のせいで傷つけられ大切な何かを失った者に、貴様は同じことが言えるのか? 人間は変われるだと? その失敗で失ったものは二度と戻ったりはしないのだぞ!!!」
「……虎のおじさんは、昔何かあったの?」
「貴様の知ったことではない!! さぁ、さっさと自分のあるべき場所に帰るがいい! 人間には俺のような半獣人とは違い、沢山のお仲間がいるのだからな!!」
人間に対する強い憎悪をぶつけられた光は、わずかに悲しみを感じながら後ろの公園の出口に向かって歩きだし公園を去ろうとした。その時、
「シャシャシャ、やーっとご帰還かい人間のガキんちょ!!」
「我ら2人の出番がようやく来たようですね」
タイガーアベンジャーの左前方に直立したクモのような怪人とドクガのような怪人が現れる。ビーストウォリアーズの刺客、クモ獣人とドクガ獣人だ。
「コウモリ獣人の言った通りだったな!! あの裏切り者の半端者の心の支えだっていうガキんちょがこの街にいるって話は。街全体にこの俺クモ獣人の蜘蛛の糸の結界を張っておいて正解だったな!! 蜘蛛の糸でできた結界の中には外部から内部に入ることもその逆もできないが、空間転移の鍵の力でのみ街の内部に入れるよう細工しておいたからな。空間転移の鍵の力を感じた場所に行けば、その人間のガキんちょってのがどいつか即座に特定できるというわけだ!! 俺様、あったまいいー!!!」
「クモ獣人、まだあの裏切り者の半端者を倒したわけではありません。喜ぶのはまだ早いですよ」
「わーかってるよ、ドクガ獣人! だが、今まであの半端者の討伐に何の役にも立たなかった俺達がこうしてチャンスをつかんでるわけだろ? 舞い上がらずにいられるかよ!!」
コウモリ獣人から光に関する情報を伝えられたらしい彼らは、まだブレイブレオの友である少年を特定しただけであるにもかかわらず妙に舞い上がっていた。
「俺の存在を忘れているのか? ビーストウォリアーズの獣人共。奴をこの手で殺すまでは、このガキには指一本触れさせんぞ!!」
クモ獣人、ドクガ獣人に対し、ファイティングポーズをとるタイガーアベンジャー。
「人間のガキ、俺は貴様ら人間が嫌いだ!! だが、奴との決着がつくまでは貴様を守り通すと奴と約束している。約束は必ず守らなければならん。貴様を守るのは俺の目的の為であることを忘れるな!!」
「……わかってるよ」
「話は終わりましたか? では、こちらからいかせてもらいますよ!! ポイズンパウダー!!」
「なっ!!」
ドクガ獣人は、利用するつもりゆえ傷つけることはしないとタイガーアベンジャーが考えていた光も巻き込み躊躇なく猛毒の毒鱗粉を周囲に撒き散らした。
「うわあぁぁ!!」
恐怖心から悲鳴を上げる光だが、次の瞬間彼は生きていた。何が起こったのかと自分の周囲を確認する光は、自身が白い霧状のもので包まれていることに気づいた。
「なんとか……間に合った……か」
光は自身の守護者である虎の半獣人の戦士に顔を向けた。そこには、猛毒の毒鱗粉に苦しみながら自身に対して片手を向けて片膝をついているタイガーアベンジャーの姿があった。
「貴様の周囲にある霧は、俺が作り出した霧のバリヤーだ。この中ならば、このような毒鱗粉の中でも生きていられる。だが、ぐっ、ぐあぁ」
タイガーアベンジャーに対し、突如クモ獣人が口からクモの糸を吐き出し光に片手を向けた状態の彼の体を包み込んでしまう。そして、タイガーアベンジャーは彼を中心に放射状に絡みついたクモの糸で拘束されてしまう。
「シャシャ、水属性の半端者よ。俺達は貴様がこの人間を能力で守り、隙ができる時を待っていたってわけさ!! ドクガ獣人の毒鱗粉からこの人間を守るため能力を使えば、その間はそれ以外の水属性の能力は使えまい。そこをこの俺様、クモ獣人が貴様を捕らえ貴様ら2人をまとめて人質にしようという計画だったのさ!!!」
「まぁ、もっとも、あなたはあの裏切り者の半端者と違って人間を嫌っているようでしたからガキを守るために能力を使うか、ガキを見殺しにして自身に能力を使うかは賭けでしたがね」
「くっ、おい人間のガキ、貴様は早く安全な場所に逃げろ! 貴様が安全を確保するまでは霧のバリヤーは維持する! 急げ!!」
「う、うん!」
光は霧のバリヤーに包まれた状態で撒き散らされた毒鱗粉の中から脱出しようとした。だが、
「おおっと、そうはいかないぜ人間のガキんちょ!!」
クモ獣人が上空を見上げ口を開くと、彼の口から大量の蜘蛛の糸が吐き出された。それは天に向かって吐き出された後、放射状に分散し光とタイガーアベンジャーのいる公園一帯を包み込む巨大な結界となった。
「そ、そんな……」
「くっ、閉じ込められたか!」
「シャシャシャ、おいドクガ獣人、俺にお前の毒鱗粉の解毒剤を渡せ。このままでは、俺まであの世行きだからな」
「わかっていますクモ獣人。あなたは早くこの結界の外に出て、あの裏切り者の半端者をここへ連れてきてください。この人質2人の命と引き換えに、ビーストウォリアーズに自らの命を差し出すことを要求してきてください」
ドクガ獣人はそう言うと、クモ獣人に解毒剤と思われる液体の入った小瓶を渡す。
「了解だドクガ獣人!! これで、我らの勝利は間違いなしだ!!」
クモ獣人は小瓶を受け取ると、足早に結界の内側の壁に近づいていく。すると、蜘蛛の糸で作られた結界の一部が開きクモ獣人は結界の外へ脱出していった。
「ゲホッ、くっ、半獣人の身体能力をなめるなよ!! 水の力が使えずとも、こんな糸の拘束ごときでこの俺を!!」
タイガーアベンジャーはブレイブレオに負けず劣らずの身体能力を発揮して蜘蛛の糸の拘束を引きちぎろうとした。だが、蜘蛛の糸の拘束は彼の体に絡みついたまま全く動かなかった。
「無駄ですよ、水属性の半端者。その糸は炎や熱に極端に弱い弱点こそありますが、単純な腕力などの力は一切寄せつけないほどに頑強なのですよ。あなたは、そこの人間のガキと一緒に裏切り者を始末するための駒になってもらいます」
「虎のおじさん、なんで? なんで、そこまで? 俺を見捨てれば虎のおじさんは助かるんだよ!!」
「……奴と約束した。決着がつくまでは、貴様を必ず守り通すと。ゴホッ、何があっても、一度約束したことは、守らねばならん!!」
(そう、俺は、貴様ら人間のような恐怖に屈するような弱い存在などでは、ない!!)
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