半獣人編
第7話 同胞
「ゴウキおじさん、明日は俺の誕生日なんだ! おじさん、俺の誕生パーティーに来てくれる?」
「光、その日にはお前の友達だって当然来るだろ? 俺みたいな奴がいたら、迷惑にしかならねぇだろ?」
洗脳された光との戦いから数日後、退院したゴウキのアパートの部屋を光は訪れていた。ゴウキの言葉に対し、光は顔をわずかに曇らせたがすぐに振り払うと笑ってみせる。
「前にも言ったけど、俺は学校ではいじめられてたんだ。だから、今はおじさん以外に友達はいないんだよ。でも、おじさんは言ってくれたよね。俺をいじめる奴らに気後れすることはないって。難しいかもしれないけど、今からでも自分を信じて前を向いてみるよ」
「ああ、その意気だ!!」
(光、お前は俺の心を救ってくれた。俺の方も、少しはお前の力になれたのか?)
「それでおじさん、来てくれる俺の誕生パーティー? やっぱり、獣人達との戦いがあるから無理かな?」
不安そうにゴウキの顔を見上げる光。そんな光に対し、ゴウキはニッと笑うと断言する。
「迷惑でないなら、ぜひ行かせてもらう!!」
「良かった!! じゃあ、その日俺のアパートの部屋に来てね!!」
嬉しそうに自分のアパートの部屋に戻っていく光。そんな光を見送るゴウキは嬉しさを感じると同時に戸惑っていた。半獣人ゆえに孤独の日々を過ごしていた彼は、光同様友達ができたのも、その友達の誕生パーティーに呼ばれることも初めてだったからだ。
(誕生日か。誕生日プレゼントってのは何を用意すりゃいいんだろうな?)
腕を組み、友達の誕生日プレゼントに1人悩むゴウキ。獣人達の前では鬼のような形相を見せる彼である。たった1人の友達の少年のプレゼントに悩んでいる姿だと知ったら、さぞや驚かれるであろう姿であった。
……
ブレイブレオは人間を守ることを誓い人間を守り始めてから、敵の獣人が消滅した後に残される異世界への帰還の為の空間転移の鍵を使い日本各地で戦っていた。その日、ブレイブレオは日本のある街でビーストウォリアーズの獣人、キツネ獣人と戦っていた。キツネ獣人は狐火を用いたブレイブレオと同じ炎使いであった。
「死ね半端者!! フォックスファイヤー!!!」
「誰が死ぬか、このキツネ野郎!! フレイムドラゴン!!!」
キツネ獣人が口から吐き出した青白い炎とブレイブレオの右手から迸る紅蓮の炎がぶつかりあう。青き炎はブレイブレオの闘志を表すかのような紅蓮の炎とわずかに拮抗するがすぐに押し返され、そのままキツネ獣人にダメージを与える。
「ぎゃぁああああ!!」
キツネ獣人の青き炎の力との激突でわずかに技の威力が弱まったのか、ブレイブレオの炎はキツネ獣人に炎によるダメージを与えるだけにとどまる。瀕死のキツネ獣人に近づき、自慢の怪力をいかした必殺のパンチで獣人の腹をぶち抜こうとするブレイブレオ。
「ま、待て、半端者。あれを見ろ!」
「だ、誰か助けてくれーー!!!」
ブレイブレオが振り向くと、彼の遥か後方では戦闘員達に捕らえられた数名の一般人達がいた。
「て、てめぇ、卑怯だぞ!!」
「勝てばいいのさ、勝てば! どんなことをしたとしてもな!! さあ戦闘員達よ、この裏切り者の半端者を取り押さえろ!」
一般人達を取り押さえていた戦闘員のうちの3人が、キツネ獣人の指示に従いブレイブレオを3人がかりで取り押さえる。
「くっ!!」
「おぉっと、動くなよ半端者! あの人間共を殺されたくなけりゃな!!」
ブレイブレオは悔しさのあまり歯ぎしりしていたが、キツネ獣人のその言葉を聞きおとなしくなる。
「ハッ、馬鹿な奴! こんな脆弱な存在を守るために自分が犠牲になるとはな」
「犠牲だなんて思ってねぇ。俺は俺のやりたいように生きてるだけだ。自分が守りてぇ人間を守る、ただそれだけだ!」
「その守りたい人間様は、実力で我らの足元にも及ばない下級戦闘員にビクついてるだけだぜ」
「俺は信じてんだ。『あいつ』だけじゃねぇ。人間には助けを待つだけでなく、恐怖に向きあう心だって誰しも持ってるはずだってな!」
(恐怖に向きあう……心)
ブレイブレオの言葉を聞いた人質の1人が意を決して戦闘員の腕に噛みつき、拘束から逃れた。他の人質達も同様の方法で戦闘員から逃れ走り出すが、身体能力で普通の人間が戦闘員にかなうはずもなく、すぐに追いつかれ捕まりそうになる。そんな彼らを戦闘員の拘束を振りほどいたブレイブレオが両手を彼らに向け円形のバリヤーを張って守るが、バリヤーの使用中は他の能力は使えない隙だらけのブレイブレオをキツネ獣人が攻撃しないはずもなかった。
「背中ががら空きだぜ、半端者ーー!!」
キツネ獣人が右腕を鋭利な剣に変形させ、ブレイブレオを後ろから刺し貫こうとしたその時、
「アクアーニードルス!!!」
「ぎゃぁあぁあああああ!!」
突如キツネ獣人の足下から猛烈な水柱が吹き上がり、キツネ獣人の身体を粉々に砕いた。
(な、何だ? 俺を助けたってのか?)
思いもよらない援護にしばし呆然とするブレイブレオ。キツネ獣人が光の粒となって消滅した後、ブレイブレオは技名を叫んだ声のした方向を見る。そこには、破壊された瓦礫の上に立つ漆黒のパンタロンに裸の上半身の虎の獣頭を持つ異形の怪人がいた。
「何者だ、てめぇは?」
「俺か? 俺は貴様と同じ、獣人と人間の血を持つ半獣人、復讐の猛虎タイガーアベンジャー!!」
「半獣人……だと? てめぇが半獣人だって証拠はあるのか?」
「これをみればわかるだろう?」
タイガーアベンジャーは自らの能力で作り出した氷の短剣で自分の顔を軽く切ると、その短剣をブレイブレオに投げる。ブレイブレオは短剣を拾い、その短剣についた血の色を見ると愕然とする。
「赤い……血!」
獣人の血の色は人間とは異なる緑色をしているが、人間との混血児である半獣人の血の色は人間と同じ赤色であった。その短剣についた血の色は彼が半獣人であるという何よりの証拠であった。
「俺は貴様を倒し、獣人の組織ビーストウォリアーズに己の力を認めさせる。そして、獣人と共に人間を葬り去るのだ」
「俺達は獣人と人間の血、両方を持つ半獣人だ。なぜ、獣人側につく?」
「俺は人間の世界で育ち、人間に迫害されてきた。俺がまだ半獣人としての力をほぼ使えなかった頃、人間共は俺を化け物扱いし傷つけていた。そんな人間達がどうだ。憎しみを糧に修行を続けた俺の力を目の当たりにした途端、態度を豹変させ俺を恐れるようになったのだ。人間は自分より弱き者を傷つけ、自分より強き者には恐れを向け排除しようとする。結局俺達半獣人には、人間の世界に居場所なんてないのだ。だから、俺は自分の居場所を作る。数多の獣人達を倒してきた貴様を倒せば、獣人達も俺の力を認めざるをえないだろう」
「だったら、俺だけを狙えば済む話じゃねぇか! 人間を傷つける気なら、てめぇも敵だ!!」
「人間は俺にとっては憎悪の対象。獣人達が人間滅亡を目的としているなら、喜んで手を貸すさ。俺は獣人の仲間となり、人間を滅ぼす!!」
「そんなことはさせねぇ!! 俺はやっと自分を必要としてくれる友を、居場所を人間の中に見つけたんだ! それを奪うってんなら、例え同胞でも容赦しねぇぞ!!」
「人間の世界に居場所があっただと? その人間も、いつか貴様を裏切るさ」
「あいつを侮辱するんじゃねぇ!!」
ブレイブレオは怒りのあまり、自分の周囲に無数の炎弾を作り出す。
「今の貴様は獣人達との戦いで力の大半を使い、疲労している。貴様を助けたのは、万全の状態の貴様を倒さなければ意味が無いからだ。次に顔を合わせる時は、万全の状態で本気で戦え。さらばだ」
そう言って、戦場を去って行くタイガーアベンジャー。
(タイガーアベンジャー……か。やっと、同胞に会えたってのにな。俺達は、わかりあうことは無理なのか?)
……
人間の世界で生きるためアルバイトでなんとか生計を立てながら、日本各地に現れるビーストウォリアーズの獣人達とたった1人で戦い続ける彼である。1日が終わる頃には、既に疲労困憊になっていた。それでも、何とか獣人達を倒し光の誕生日プレゼントを用意することができたゴウキ。
ピンポーン!!
ゴウキは疲れ切っていたが、なるべくそれを顔に出さないよう努めていた。光の誕生パーティーに誘われたことは純粋に嬉しかったし、誘ったことが迷惑だったとは絶対に思われたくなかったのだ。やがて、扉が開き嬉しそうな顔をした光が出迎える。
「おじさん、今日はありがとう!! 本当は忙しいのに……」
「さあ、上がってください! 色々ごちそうも用意しましたから」
続いて光の母親もゴウキを出迎えに現われるが、彼女を前にゴウキの心は複雑であった。光を戦いに巻き込み、獣人に攫われてしまったことの謝罪をまだ彼はヒーロー「ブレイブレオ」としてはしていないからだ。だが、彼はその思いを押し込めた。
(いつかは必ず向き合わなきゃならねぇことだ。だが、今は光の誕生日を祝わねぇとな。いや、祝ってやりてぇんだ)
最初はわずかに緊張していた部分もあった彼だが、初めて食べるバースデーケーキのおいしさに驚いたり、初めて遊ぶテレビゲームに戸惑いながらパーティーを楽しむ中で孤独の中で冷え切っていた心が徐々に温かくなっていくことを感じていた。
「デザートのフルーツを持ってきますね。ゴウキさんも、少し待っていてください」
光の母親が席を外し、声の届かない場所に離れるとゴウキはそれを待っていたように光に声を少し小さくして話しかける。
「光、今日はありがとうな! 俺の周りにはいつでも敵しかいなかった。だから、こんなことに呼ばれるのは初めてだったんだ」
「そうだ! おじさんの誕生日も教えてよ! 俺もおじさんの誕生日を祝いたいんだ」
「……俺の誕生日は、俺自身にも分からねぇ。俺の一番古い記憶は倒すべき敵の顔だからな」
「それって……」
「俺の両親は俺を捨てたんだろうさ。俺は人間でも獣人でもないからな……」
「……ごめん、おじさん」
「気にするな、昔の話だ。それより光、これが俺の用意した誕生日プレゼントだ。受け取ってくれるか?」
そう言ってゴウキは光に、紐を通してペンダントにしてある3本の鍵を渡す。
「鍵?」
「この鍵は、獣人が自分の世界へ帰還する時に使う空間転移の力を秘めた鍵だ。行きたい場所を念じれば、その使用者1人を一度の使用につき一度だけ行きたい場所に転移する。いいか光、いざという時はその鍵の力で獣人達から逃げろ。いいな?」
「わかったよ。ありがとう、ゴウキおじさん」
「本当はこれ以外にもプレゼントを用意したかったんだが、なにしろ金が……。ごめんな、光」
ゴウキの言葉に光は俯くと、答える。
「謝ることなんて無いよ。本当は俺、ゴウキおじさんが俺の誕生パーティーに来てくれると思ってなかったんだ。おじさんにそんな時間は無いと思ってた。でも、おじさんは友達として俺の誕生日パーティーに来てくれて、祝ってくれた。それだけで、俺はすごく嬉しかったんだ」
「……」
「それに謝らなきゃならないのは俺の方だよ。おじさんは命懸けで人間を守ってくれてるのに、俺にはおじさんを助ける力は無い。おじさんからは助けてもらってばかりじゃないか。ごめんね、おじさん」
ゴウキが何も答えないため光は顔を上げた。ゴウキは戦いの疲れから寝息をたてテーブルに突っ伏して眠っていた。
(こんなに疲れてるのに俺の誕生日パーティーに来てくれたんだ。俺にはおじさんを助けられる力は無い。それどころか、足手まといにしかならない。おじさんは俺のこと支えだって言ってくれたけど、結局俺はおじさんの足手まといでしかないのかな……)
「光、ゴウキさん寝ちゃったの? どうしましょう、ゴウキさんには悪いけど今からでも起きてもらって」
「母さん、ゴウキおじさんは仕事で疲れてるのに俺の誕生パーティーに来てくれたんだ。おじさんが起きるまでは、ここで眠らせてあげて。お願いだよ」
「……仕方ないわね」
(友達なのに、助けられてばかりなんて嫌だな……)
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