推理はなくとも《青春》がある

犯人は誰か、被害者との関係はどうだったのか、凶器はなんだったのか、どうやって殺したのか、殺害に至る動機はいったい。或いはすべてがただの事故だったのか。
それは推理小説において探偵に問われることですが、こちらの小説は探偵不在。かわりに暇を持てあました学生が複数人。彼らがはじめるのは推理ではなく脚本ごっこです。故に真実かどうかは重要ではありません。

予想外の犯人、意外な動機、奇想天外な展開。
ただそれだけ。

実際に死体のある殺人事件、しかも学校のなかで起きた事件なのですから不謹慎ではあるのですが、後ろ暗さはなく、実に軽妙な語り口で推理という脚本ごっこは進んでいきます。
本筋の端々に挿しこまれた登場人物らの掛けあいがなんともいい。いきいきとしていて、それでいて平穏な青春に浸りながらだらけきっていて、時々機知の利いた刺激的な言葉が跳びだします。

こんなかたちの推理小説があるだなんて。
推理小説の新境地を拓く、素晴らしい長編でした。

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