冒頭から描写が丁寧で、少年の恐怖感と先輩の恐怖があますことなく伝わってきます。正直被害者が出たとき、ちょっと「ざまあー」と思ってしまったのですが、これも展開が巧みな故かと思います。
さて、転じて探偵役になるであろうキャラたちの描写になると、学園ラブコメの色が強く出てきますね。幅の広い物語が描ける方だなあと感服いたしました。ヒロインも容姿や性格、状況が違うので見分けやすくすんなり物語に入れます。
私は年はくっていますが中二病(笑)なので、主人公たちの「特別じゃないもやもや感」にはとても共感しました。彼らが事件を通してどう成長していくか、見守っていきたい思いです。
楽しく読ませていただきました。これからも頑張ってください。
自分の人生に人とは違った特別さをあきらめない前守は、常に刺激的なことに飢え鬱々とした日々を送っていた。
そんな彼女の友である主人公の犬一は、自分が特別な登場人物でないことを悟った側の人間だった。
こうやって書くと、とある名作を思い出します。そう「涼宮ハルヒの憂鬱」です。この作品はいわば、宇宙人も未来人も超能力者も出てこない「涼宮ハルヒの憂鬱」と言ったところです。
ただしその代わりと言っては何ですが死体が出てきます、宇宙人や未来人や超能力者よりはある意味ではよほど大ごとです。
待ちに待った非日常、それに対して彼らは探偵ごっこではなく脚本作りを始めます。非常に落ち着いた文体でありながら、スラスラと読め作者の力量の高さがうかがわれる作品です。
犯人は誰か、被害者との関係はどうだったのか、凶器はなんだったのか、どうやって殺したのか、殺害に至る動機はいったい。或いはすべてがただの事故だったのか。
それは推理小説において探偵に問われることですが、こちらの小説は探偵不在。かわりに暇を持てあました学生が複数人。彼らがはじめるのは推理ではなく脚本ごっこです。故に真実かどうかは重要ではありません。
予想外の犯人、意外な動機、奇想天外な展開。
ただそれだけ。
実際に死体のある殺人事件、しかも学校のなかで起きた事件なのですから不謹慎ではあるのですが、後ろ暗さはなく、実に軽妙な語り口で推理という脚本ごっこは進んでいきます。
本筋の端々に挿しこまれた登場人物らの掛けあいがなんともいい。いきいきとしていて、それでいて平穏な青春に浸りながらだらけきっていて、時々機知の利いた刺激的な言葉が跳びだします。
こんなかたちの推理小説があるだなんて。
推理小説の新境地を拓く、素晴らしい長編でした。
ある日、校内で起こった殺人事件。日常に退屈していた主人公たち、男女三人は事件の謎を追うことにした……と説明すると普通のミステリーっぽいのだが、本作が特徴的なのは彼らが行うのが、「探偵ごっこ」ではなく、「脚本家ごっこ」という点だ。
では脚本家ごっことは何か。作中の台詞を引用すればこういうことだ。
「つまりね。今回の事件を面白おかしく説明をしようって訳。どういう動機で、どういう方法が取られたか、一番面白い筋を書いた人が勝ちね」
とんでもなく不謹慎な話なのだが、授業をサボったり、ずっと寝ていたりするのが当たり前の彼らにとって、たいして親しくない生徒の死なんてあくまで暇つぶしの材料でしかない。そして、こんな彼等が繰り広げる会話がとても軽やかで読ませるのだ。
謎解き部分がややあっさりとしてミステリーとしては少し弱い部分もあるが、それよりもクラスメートたちとの何気ない会話や、事件を調べる過程で浮かび上がる男一人女二人の微妙な関係性など、青春小説としての側面を楽しんでほしい。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)