ライトなノリで展開されるスレイマンさま(覇者として超ヤバイ)とイブラヒム(すっげー雑に言うと諸葛亮)のラブラブちゅっちゅ(物理)をにこにこと眺めていたのですが、後半にいきなり出てきたこの言葉で刺されて、ええと、何と言うか。
その落差で爆笑しました。
いやっ、そのっ!?
自分はイスラームに明るくなく、コーランの向こうにいる人々の顔があまり見えません。だからコーランの「アラビア語のみで書かれるべき。その言葉を一字一句違えぬためにも。外国語で書かれたコーランは、ただの解説でしかない」と言うメンタリティの厳正さに心打たれつつ、そうでもしなきゃ弱い人間の解釈はどうしても揺れちゃうよねーと思い、とは言っても守るのってきつくね? 辺りで考えが止まっていました。
けど、このお話を読んで、あーまぁそりゃイスラームの人びとも人間ですしねー、と胸をなでおろす感があり。神より賜いし法と、人間たちが実際に暮らしてゆくにあたって布かれる法とには、違いがあってこそしかるべきであります。また、人の法は決して絶対化されてはいけません。常に相対化がなされるべきなのです。
絶対化って嫌いなんですよ。自分の絶対化もそうだし、他人の絶対化もそう。どちらにせよ「相手」の尊厳を踏みにじる行為です。同じような感じで、宗教にも「何か特定のものを絶対化させる」要素を感じて違和感を覚えていたりもしたのですが、上記の言葉を受けて、はっと気づくものがありました。
「見えない何か」を絶対化させることは、見えるあらゆるものを相対化させることに繋がります。そう認識すると、信仰、つまり大いなるものへの無制限の愛を抱くことで、人と人とが労わり合い、慈しみ合う、あるいは合わない人に対しても極端な否定拒絶を示さず、一定の理解をし、尊重する、ということができるようになるのかな、とか、そんなことを思いました。
以上の思考を、一言に集約致します。
にゃーん。
先に『羅針盤は北を指さない』を拝読していたので、とてもクールに決め込んでいたスレイマン様の意外な初々しいお姿に、常ににやけてしまいました。
内容は、学校に通ったことのない王族である県知事スレイマン様が、学園生活に憧れて、男子校を舞台にライトノベルを書きたいと言いだす一見ぶっとんだものです。が、きちんと史実に基づいていることに驚かされました。それに、作者様の筆致は相変わらずとても綺麗で、丁寧なんです。ただ、彼(スレイマン様)は恋愛ものを書きたいと仰っていて、実は好意を寄せている人が・・・。
BLまではいかない(?)のかもですが、そんな感じも楽しめて、これまで全く興味が無かった世界の扉を、まんまと開かされてしまいました。専門用語が出て来て難しいかと思いきや、すごく読みやすくて、本当に面白くて止まらなくなります。個性的な魅力が光る作品。
美しくて優しい男の友情(愛情)がとっても素敵でした。
まだ16歳の、ごく若い王族かつ県知事の名はスレイマン。その監視役として中央から派遣されてきたのはイブラヒムという名の若者。前者は慣れない官僚勤めに奮闘中、後者はエリート街道を歩み出したばかりだ。
彼らはのちに、オスマン帝国の最盛期を築く壮麗帝スレイマン1世およびその寵愛を受ける大宰相イブラヒム・パシャとして、ヨーロッパにまでその名をとどろかすことになる。
県知事さまがイブラヒムに一通の手紙を渡し、「検閲してほしい」と頼むところから物語は始まる。緑の瞳を輝かせて、ふわふわと話をあちこちに雲のように飛ばしつつ、自分の夢や希望を語る県知事さま。経験し得なかった「学校」を舞台として物語を書きたい、ゆえにそなたの体験を語れ、学校での集団生活の暮らし、恋愛とはどういうものか、自分がなりたいものとは……。
イスラームの神や法を巡る対話を通じ、イブラヒムはスレイマンの素直さに戸惑いながらも理解しようとつとめ、やがてこの美しくも聡明で、少々天然な王子に惹かれていく。そして……。
オスマン帝国史を紐解いた御仁ならばご存じの通り、この2人は史実では最終的に苦く哀しい結末を迎えることになる。
だが、本作にはそのような影など感じさせない2人の持つ明るさ、初々しさ、素直さ、そして真摯さが満ち、まさに青春ものといったきらきらした趣き、彼らが過ごす幸福な時間が、一日でも長く続くように願わずにはいられない。
ちなみに、本作いちの名場面は「ばりっ」ですね。異論は認める。
ある国の歴史を読み解く上で、その国の文化と思想を創り上げているものを知る必要がある。大抵の場合、それは宗教だ。イスラームの教えは日本人には馴染みが薄く、なかなか理解し難い。それを分かりやすく、ちょっと不思議な関係にある美貌の若者二人に語らせたのが、この作品だ。
スレイマン1世と言えば、軍事に長け、立法や行政の整備に努め、歯向かうものは己の息子であろうと処刑する冷酷さを持ち合わせた、オスマン帝国を最盛期に導いた皇帝だ。
だが、この作品に登場するスレイマンは、仕事中に部下に手紙を回してきたり、「恋愛小説の執筆がしたい!」と突然言い出すような天然ボケ。しかも「舞台は男子校。恋愛要素も取り入れて」だ。とんでもなく世間知らずで、人の話を聞いているかどうかも疑わしく、その思考は仕事中でも浮き雲のようにぷかぷかと浮遊して掴み所がない。
時々鋭い意見を述べるが基本ふわふわとしたスレイマンと、面倒臭いと思いながらも「一応、王族だし」と相手をする彼の書記イブラヒム。この二人の、ボケとツッコミの掛け合いにも似た会話が絶妙。現代社会に置き換えても「こう言う上下関係だったら、仕事もしやすいだろうなあ」と思ってしまうほど。歴史モノなのに、現代人チックな二人の会話は本当に微笑ましい。
会話の内容は、イスラームの法律や神についての大真面目な問答だ。キラキラと瞳を輝かせながら無邪気な質問を繰り返す子供に翻弄されながらも、根気良く答えを返す生真面目な父親の会話、と言ったところか。「コイツ、意味がわからない」と思いながらも、目の前の愛すべき青年を思わず「押し倒したい!」と葛藤するイブラヒムの心の声に、思わず苦笑。
男同士の愛情を絡ませながら、嫌な感じが全くしない。コメディという形を取っていながら、本当の二人の姿を知りたいという知的欲求心をくすぐられる。作者さまの「スレイマン&イブラヒム」カップル(?)への愛を感じる素敵な作品で、イスラームの世界を覗いてみては?