あとがき
『県知事様はライトノベルが書きたい』、お読みいただきありがとうございました。
この約4年後を題材とした『羅針盤は北を指さない』と同じような語呂になりましたが、文体はかなり違います。同じ人物も出てきますが、どちらも単体で完結する作品として書いています。
しかし、共通する価値観がありまして、それは『羅針盤~』の方のスレイマンが言っており、こっちのスレイマンも同じようなことを言っている、「過ちなきは神のみ」という一神教の根幹をなす考え方です。
歴史的なネタバレをしますと、この話の2年後、スレイマンの父がクーデターを起こし、帝位に就きます。
そのことにより、平凡な地方官として終わるはずだったスレイマンは25歳でオスマン帝国第10代皇帝となります。
スレイマンは「大帝」、「壮麗者」など様々に称賛される名君となるのですが、イスラーム圏においては「立法者」という評価がよく用いられます。
イスラームにもいろいろあり、原理主義といわれるような人々は
しかし、オスマン帝国の国学であったスンナ派四大学派の一つ、ハナフィー学派は、法学者が聖典を“解釈”できる幅が最も広い学派でした。
ですから、皇帝となったスレイマンは聖典を当時の社会に合わせて解釈し、それを「法」として制定します。
「立法者」と呼ばれるのはそのためです。
しかし、今、立法者スレイマンの法はどうなっているでしょうか。
世俗主義国家であるトルコ共和国は勿論、どのイスラーム国家もスレイマンの法を現行の法律として用いてはいません。
それは、立法者スレイマンも人間であり、誤りも限界もあり、その定めた法も、時代の変化とともに変えていかねばならないことを、現代の人が知っているからです。
ちょっぴり寂しいですが、ほんわり幸せなことです。
*
全体的な話としては
・アンドレ・クロー『スレイマン大帝とその時代』
・林佳世子『オスマン帝国500年の平和』
など、
そして小姓の生活や「恋愛」については
・三澤志乃富 「オスマン朝宮廷における小姓たちの生活 ―Ali Ufki Bey の手記を中心に―」
を参考にさせて頂きました。
イブラヒムの前半生についても謎が多いので、近習学校出身かどうかはわかりませんが、この時期のデウシルメ出身の奴隷官僚ならば、出身であっても不自然ではないと判断しました。
(デウシルメ制については『縄と鎖』のあとがきを参照下さい)
それから、登場人物二人の“憧れの上官・テオ室長”のモデルになった人物についてです。
東ローマ帝国最後の皇帝の甥マヌエル・パレオロゴスの息子が“メフメト”という名でオスマン帝国に仕えているのですが、この話のように奴隷としてのし上がったわけではありません。なので、別人物扱いとし、本名の方を“テオドロス”という架空の名前にしておきました。本名何だっけ(笑)
あと、スレイマン様がライトノベルを書いていたかは定かではないのですが、恋愛詩を多く書き、また、幼い頃から『千一夜物語』の元になる物語を愛読していたといいます。多分、ロマンチックなメロドラマが好きだったのではないかと(笑)
イブラヒムとの「恋愛」とその結末に関しては、別の短編、『猫と預言者』のあとがきをご覧下さい。
(本編も読んで頂けると嬉しいです・笑)
スレイマンの妹・ハディージェ王女も実在の人物で、実は後にイブラヒムと結婚します。
そして、これは一説に過ぎないのですが、イブラヒムの処刑後(←これ自体、この話から来て下さった方には壮大なネタバレですみません)、自殺したとも言われています。
ムスリムにとって自殺は禁忌なので、スレイマン様にとっては辛すぎる話です。
何か書きたいですが、辛くてなかなか書けません。
いろいろ壮絶にネタバレしていますが、「悲劇前提のほのぼの話」を書いてみたいのです。
日本史のメジャーな時代とかなら、みんな知っているので、説明なしでいけるのかもしれませんが。
こんな感じですが、またおつきあい頂けたら幸いです。
(追記)
続いてるような続いてないような、この二人のディスカッション小説ができました。一緒にコーランを読んで、見えてきた結論は?
『猫は神を知り、人は神に背く』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885156584
(追記 2018.4.14)
自主企画「純文学とライトノベルの違い」というのがあり、それに、この二人にディスカッション形式で参加してもらいました。
内容としては、本編の少し後、『猫は神を知り~』よりも前のある日の会話、という感じです。
県知事様はライトノベルが書きたい 崩紫サロメ @salomiya
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