読んでいると心が病む。それでも、止めれない。この小説はまるで麻薬

「誰も読まない、いや、読まない方がいいかもしれない…。」と、キャッチコピーがついているように、登場人物は誰も幸せな人がいません。主人公の娃子の回りは家族も友人も近所の人も、ろくな人間がいない。

 昭和初期の関西。まだ、通りなどで募金箱を置いた傷痍軍人がいざっていた時代から、大阪万博が華やかに開催された高度成長期にはいってゆく過程、当時の若者たちのサークル活動、洋裁の蘊蓄なども興味深く描かれており、人物表現は圧巻です。

 特に娃子の育ての親である絹枝の奇矯な言動や”血の濃い者しか信じない”ムラ的な閉鎖性は、読み手の胸を苦しくさせます。
 にもかかわず、登場人物が増える度に次はどんな不幸が訪れるのかと先が気になってたまらないのです。主人公の娃子でさえも薄幸のヒロインとはほど遠く、心は悪意に満ちている。これは麻薬のような小説です。

 ラストがどのような展開になるのか、想像しながら読み進めてゆくのも良いと思います。

 レビューの最後に、タイトルの『ひび割れ鏡』を象徴するような文を本編から引用して載せさせていただきました。
 ひび割れ鏡を覗いた時、我々の心も悪意に染まってしまうのでしょうか……。


 ― だが、またしても娃子は、己の中の悪い心に悩まされてしまう。

 誰にでも、悪い心はあるというが、自分ほど極悪ではないだろう。 

 この極悪さに比べれば、絹枝など所詮小悪党に過ぎない… ―





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