夜中のお勉強会
「なるほどねぇ。陛下の国はまだ、中央集権化されていないんだろうね。ひまちゃんがめんどくさがって翻訳してくれないせいで、僕もまだ陛下とあまり話せてないから、推測でしかないんだけどね」
「だって、同じこといちいち繰り返すの面倒なんだもん。なに、中央集権って?」
私は陛下とコンビニで話したときに感じたことを、パパに話していた。
すると、パパが鼻を膨らませて解説を始めてしまって、今に至る。
「まだ習ってないかな? 昔はヨーロッパの王様も、今ほど力が強かったわけじゃないんだよ。……そうだな、三英傑によって天下が統一される前の日本を想像してみると、ある程度似た部分があるかな。あの信長ですら裏切られてばっかりで、最後は本能寺で死んじゃったでしょ。部下が王様に絶対の忠誠を誓うというよりは、目的のための協力関係って感じ」
「でも、信長って侍でしょ。武士でしょ。でも、陛下……王様は貴族じゃない。貴族って“麿は~”とか“おじゃる~”とか言う人たちでしょ。全然違うよ」
「あぁ、そっか。そのあたりから説明しないとダメか。……あのね、ひまちゃん。鎌倉時代に武士が出てくるまでは、日本でも貴族が戦いの主役だったんだよ。貴族というか、その前身となった豪族といったほうが分かりやすいかな」
「え、豪族って貴族なの?!」
すると、陛下が父娘の会話に口を挟む。
「今、ひまわり殿の使った言葉だが、正確に翻訳されて聞こえた。我が国にも“豪族”にあたる言葉があるのだ。つまり、ほぼ同じ存在がいたということだろう。地方で権勢を誇っていた豪族を束ねたものが王だ。王を戴くことで、豪族は貴族と呼ばれるようになる。むしろ、ひまわりどのの言う、“サムライ”が分からなかった」
「サムライ……そっか。日本的なものだもんね」
「ひま、陛下は何だって?」
私はパパに、陛下の言ったことを繰り返す。
それから何度か、パパと陛下の話を私は繰り返し続けた。
「……だそうです」
「なるほど。では、私の国でサムライに一番近い概念は、爵位を持たぬただの騎士だろうな。本来は、我が国では貴族も騎士であるのだが」
「サムライと騎士が同じっていうのは、私にもなんとなく分かります。貴族が騎士っていうのはちょっとよく分かんないんですけど」
「ひまわり殿に分かりやすく言うと、私の国では、王はショーグン、貴族はダイミョーにあたるだろう。ショーグンもダイミョーも、サムライではあるだろう?」
「あ、うん。確かに」
「この国では国体が長く続いたあまり、貴族階級と戦闘階級が一度分かたれているのだな。ずいぶん前に、貴族は政治を離れ、文化的、宗教的な部分の担い手となっていたのだろう。そのため、政治もすれば戦いにも赴く、私の国における貴族という概念が、ひまわり殿には理解しにくいのではないか」
「ねぇねぇ、ひまちゃん! 陛下は何だって?」
パパ、ウザい。
だけど、めんどくさいな、と思いつつも、今まで翻訳してこなかったことをちょっと反省していた私は、また仕方なく陛下の言葉を繰り返す。
「ふんふん。やっぱり、陛下のサングリアルは中央集権化前のヨーロッパに近い国体をお持ちのようですね」
「――だそうです」
「ひまわり殿。中央集権化とは具体的にどのようなことを差すのか、聞いてみてくれるか。言葉の意味から、想定は出来るが」
「陛下は――だって」
「あのですね、基本的には諸侯の土地を王が奪い、王領にして、自分の騎士に与えることで強固な軍を作ることですかね。それから、官僚制の整備。宗教支配者に、自国の王を神によって認められた存在であると宣伝させる、なんていうのもありますね。そうやって、権力を王家に一極集中させることで、王の考えに従って国が動くようにまとめあげることです」
「パパは――って言ってますね。ええい、めんどくさいっ」
「す、すまない。ひまわり殿。――しかし、ひまわり殿のお父君は知恵者だ。彼の話は示唆に富んでいる。私の国でも、隣国の脅威に対抗するためにも、それが出来たら素晴らしいのだが」
陛下がパパを褒めた部分は、悔しいので翻訳してあげない。
「ってか、まずは陛下は自分の国に帰る方法を考えないとじゃないですか」
「む……。それはその通りだ。今すぐにでも決めなければいけない案件が山積みであったのだが」
そんな話をしながら、私は何となく、淋しい気持ちになった。
そうだよね、陛下はいつか帰っちゃうんだよな。
しんみりした気持ちになっていると、私のスマホがけたたましく鳴った。
「わざわざ電話なんて。誰だろ……? あぁ、みりんこじゃん」
クラスメイトの名前がデカデカ書かれた画面をタップし、耳に当てる。
「もしもし、みりんこ? どうし……」
『ひまーっ! あんた、クラスLINE見てないの!? あんたに金髪で超絶イケメンの彼氏が出来たって画像が回ってきてクラス中大騒ぎなんだけど!』
「え……? は? えぇーっ!?」
「ひ、ひまわり殿? どうなされた……?」
「も、もしかして、陛下と一緒にいるところ見られた?!?!」
『誰よ、陛下って?! と、とにかく、いったん切るから、すぐにクラスLINE見て!』
私は鬼の勢いでフリックフリックタップタップ。
やがて現れた画面には、コンビニの冷蔵庫前で陛下をこっそり見上げる私や、二人でトリ串を食べているシーンなどが映し出された。ってか、撮られすぎでしょ! これだけ見れば、確かに恋人っぽく見えなくもない。
「な、な、な、なんじゃあ、こりゃぁぁぁ~~~~~?!」
その夜、塚本家に、乙女の悲鳴がこだました。
異世界ファンタジーの美少年王が、うちの庭で寝ていた件について 斉藤希有介 @tamago_kkym
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