いやー、今期はカクヨム発のアニメ化作品「慎重勇者」が面白かったですね。
感想ですが、これは全くもって「慎重勇者」を悪く言う意図ではないのだけど、って感じで話し始めると本心では何か含むところがあるのか? などという邪推を呼ぶのでこのマクラで始めない方がいいのは分かっているんだけど、これはマジでガチで本心から悪く言う意図などなく、というよりむしろ逆なんだけど、その上で思うのが、
構造が素直。
お話の構造が素直。
別に構造が複雑怪奇に入り組んでいる方が偉いなんてルールはどこにもなく、面白いほうが偉いので「慎重勇者」は偉いんですけど、単なる感想として思うのが、
素直だなぁ。ってこと。
ご本人がツイッターで仰っていた通り、二重構造になっている、分かる。分かるが、その二重のストーリーラインも箸みたいにまっすぐ。
よし、分かった、あれだ、俺の言いたいことを、邪推とかされずに表現する言い方を思いついた。火の玉ストレート。火の玉ストレートだ。
内角高めと外角低めの二種を投げているけどどっちもストレート。で、早い。球速が。球威がすごい。球威が。火がついちゃうレベル。みたいな作品だよなぁーー。
なんかこう、あれこれ変化球に手を出して、フォークもカーブも決め球たり得ない、みたいなことになっている自分からすると本当にまばゆいばかりに輝く剛速球だった。
っていう例えを使うと、「いや、勇者がありえないほど慎重ってめちゃくちゃ変化球でしょ」と言われそうなので、あー、もう、たとえ話って難しい!
今さら速球勝負なんてできない、かと言って変化球も中途半端……でも、ストレートを投げようとしても手癖で変化球っぽくなってしまう(変化球というのはすなわちこの場合はストーリーラインがぐねぐねしてるって意味です)自分からするとほんと、「慎重勇者」は最初から最後まで「勇者が魔王を倒す!」「その為の障害を順番に突破する!」しかやってなくて、まばゆい。もうね、美しいよね。すごく綺麗。俺もこういう、綺麗な話が書きたい。のに、手癖でぐねぐねしてしまう。例えるならドラクエ6……(例えに例えを重ねる愚行)ドラクエ6もいいゲームだけどね。今も実況動画追ってるけどね。ドラクエ3みたいなスパッとした明快さはないよね。
ドラクエ6……不思議な夢を見て起きる。遠くの町までおつかいに出る。その際、大地にあいた大穴を見つけ、その穴の下にはもう一つの別の大地があった。主人公はそこへ落ちてしまう、けど、結構すぐに戻ってくる。もやもやを抱えたまま、何か知らんけど女神的な存在に使命だのなんだの言われて、なぜか、「とりあえず王宮でも行くか」となり、行ったら行ったでそこで「お、ちょうど兵士募集してるから応募したろ」みたいに、ずっとフラッフラ、フラッフラしてるのがドラクエ6ですね。それでも面白いのは堀井さんの技巧であり、ドラクエシリーズの驚異的なレベルデザインの成せる業ですね。
ドラクエ3なんかもう単純明快、いきなり「勇者よ、魔王を倒しに旅に出たいというそなたの願い、しかと聞き届けたぞよ」ですからね。もう、「魔王が世界を滅ぼさんとしておる! 勇者よ、どうか倒しに行ってくれ!」ですらない。「聞きましたよ、あなたは魔王を倒したいんですね?」みたいな確認から始まる。よくRPGは「お使いばっかり」と揶揄されますけど、ドラクエ3はそんなことはない。だって、魔王を倒しに行きたいのは勇者、つまりプレイヤーなんだもの。それを王様はただ確認するだけ。お使いではないです。あなたの意志で行くのです。OK? から始まって、もうその後一切説明なし。この潔さ。
潔く物語を始めたら、後はもうひたすら物語力を高めてぶつけるだけですよ。それがもう自分には出来ない。まず、手癖が出来上がってしまっているし、物語筋を鍛えてこなかった。
創作者、創作に迷い始めると、ドラクエ6みたいな作品書きがち。堀井さんがドラクエ6書いた時、迷っていたかどうかは分かりませんが。むしろ、自覚的に「自分探し」の物語を書いたと仰っていましたが。迷った創作者がやりがちな方向性ではある。つまり、読者を信じ切れていないということなのかな。はい、不思議な夢から始まりましたよ。気になりますね? お使いに行った先で、奇妙な大穴を見つけました。気になりますよね? この謎を解きたいと思いますよね? その為にはまず王宮に行かなくちゃなりません。なぜかって? それはそういうものだからです。行かないと話が進まないからです。ほら、村長さんも言ってる。王宮へ行けって。とまぁ、色々理由を重ねてくる。けど逆に理由を重ねすぎるあまり、いや別に、夢は気になるけど穴は気になんねーわ。穴は気になるけど、王宮へ行く意味が分からない。みたいに、脱落者を作りがち。
「慎重勇者」はそんなことない。読者を信じてる。だからもう、「行くぞ」だけでいい。最初の「行くぞ」でついてこなかった人はハナから相手にしていない。その代わり、「ついてきたやつだけ幸せにしてやる」みたいな、そんな潔くも男らしい、まっすぐな、物語力の強い、美しい作品でした。
変な感想。感想終わり。
※ 全部終わったみたいな言い方してますが、アニメが完結しただけで、原作は続いてます。
※2 ↑この近況ノートも、俺の作風そのままみたいに、あれに例えたりこれに例えたり、ぐねっぐねのぐねやな。
※3 読者を信じ切れていないというのを体現しているかのような文章。説明に説明を重ねて、それでもまだ不安なのか。