いくつもの国を、いくつもの戦いをくぐり抜け、物語の辿り着く先を、どうか最後まで見届けてください――。
まず登場するのは鳥の名前を持つ不思議な力を持った若者たちです。その力と外見故に天人などと呼ばれたりしますが、彼ら自身はそれぞれに孤独で、心のなかに深い傷を持つ、ごくごく普通の感覚を持った若者たちです。彼らとともに、読者はこの広い世界の中に旅立ちます。
次いで描かれるのが草原の若き王トグルの苦悩です。
鷲や隼といった鳥の名を持つ若者たちも、引き続き登場します。国と国との駆け引きや戦いの中で、友情や恋愛といったありふれた感情も育まれていきます。しかしそれも、過酷な現実や、彼らの引きずる深い傷と無関係ではありません。
そして最後に語られるのがネガヤーなどと呼ばれ蔑まれてきた奴隷たちの反乱とその顛末です。
奴隷であった彼らが反乱を起こし、盗賊となっていく。自由を夢見て、自分たちでまた自分たちを縛っていってしまう。
盗賊を率いる少年デオは、針を逆立て、怒り狂うハリネズミのようです。彼の中にはどす黒く燃える怒りがあって、その熱はやがて彼自身をも溶かしてしまう。そんな危うさがとても魅力的に、そして悲しく、描かれていました。
それと、物語の一番最初に登場するオダという少年も忘れることができません。彼は物語の流れからは外れた位置にいながら、物語を最初から最後まで見届ける、そんな役目を持っていたように思いいます。
色々語ってしまいましたが、この壮大な世界に生きる若者たちの生き様を、どうぞご覧になってみてください。言いたいことは、それだけなのです。
科学文明の崩壊し去った遠い未来のどこかでは、
前近代のユーラシア大陸にも似た世情が現出し、
人々はそれぞれに過酷な環境の中に生を受けて、
運命に翻弄されるように、相争って生きている。
銀色に輝かんばかりの美しい姿をした〈古老〉。
特異な容姿とともに不思議な力を持った彼らは、
己が何者であるかを求めて苦悩し、旅を続ける。
鳥の名を以て自分の名とし、家も里も持たずに。
〈古老〉である鷲、隼、雉、その家族である鳩、
家族に加わる鷹や、かつて家族であった鳶と鵙、
それぞれの背負う人間ドラマから目が離せない。
緻密に描かれた心模様に毎度、胸が苦しくなる。
また一方、綿密に調べられ構築された世界観は、
絶えない戦禍の緊迫感を痛いほどに描き出して、
なぜ戦をするのかという価値観の対立の最中へ
読者を巻き込み、その根深い葛藤に対峙させる。
草原の描写がとても好きだ。そこにある自然と、
遊牧民の暮らしぶりや彼らの文化伝統、人間性、
戦を巡る独特の価値観、秘匿された滅びの予兆、
そして、トグルを王に選んだときの彼らの変容。
壮大であり緻密でもある本作『飛鳥』について、
その魅力を上手にまとめて語ることができない。
彼らがあまりにも人間くさすぎて、何というか、
「キャラ」ではないんだ。「人物」だと感じる。
とうとう完結してしまったことが本当に寂しい。
本当はもっとずっと彼らの世界に浸っていたい。
部の区切りでレビューまとめておけばよかった、
とかいうことを思っていて。読み返せばいいか。
中央アジア風の緻密で奥行きある世界観を舞台に、厳しい運命に翻弄される者たちの姿を描く、壮大な大河ファンタジーです。
第5部現在で総文字数が90万字を突破している超大作ですが、読み始めるとあっという間に物語世界へと誘われ、長さが全く気にならなくなります。むしろ、まだ続きがあるということが嬉しい。
物語のスケールに比例するように、たくさんの登場人物が出てきます。
血の通った、個性豊かで魅力的なキャラクターたち。きっとあなたにも推しが見つかるはず。
しかしご注意ください。どの人物も過たず、凄まじく重いものを背負って生きています。
過酷です。ひたすら過酷です。胸が潰れそうになります。
だがそれがいい。
私の最推しはトグルです。次いで隼。
二人のことについて話し始めると真顔で早口で軽く小一時間くらいは止まらなくなりそうなので、ここでは控えておきます。
作者さまの豊富な知識によって紡がれる文化や風習などの描写や、綺麗事など一切存在しない戦の場面など、見どころたっぷりで非常に読み応えがあります。
壮絶な運命の中にある、人の愛と情と絆。
その歴史の荒波を、自分の推しがどう生き抜いていくのか、私と一緒に見届けましょう!
砂漠と草原。中央アジア風の素敵な世界に序盤から惹かれました。
作者様の他の作品と同様、地理地形から服装、食べ物といった細部までさりげなく描写されていて、安心して物語に入り込むことができます。文中で描かれる厳しく美しい自然は、読んでいて時に心が洗われる心地になります。
様々な国や民族がそれぞれの思惑と目的のために動く世界で、故郷を持たない主人公たちは、自由な思いのもと国から国へと旅を続けます。しかし、その道程は簡単にはいきません。大変厳しい世界を生き抜く人物たちが正面から描かれています。
人は様々な考えや思いに基づいて行動を起こします。自らの属する社会と、個々の思いがあり、それらが複雑で根差すものが違えばそれを理解するのはとても難しい。登場人物たちは皆、人を思いやる優しい心を持っています。けれど、それ故に自分と相手の立場が違うほど傷つけ合ったり、関係に亀裂が生じたりする。現代社会であればいくらでも修復可能なものでも、この物語の世界情勢では些細な亀裂がお互いの生命に直結しています。
特に私はトグル・ディオ・バガトルという人物に惹かれました。「狼の末裔」として、自身を人間ではないと言い切る彼ですが、心の奥には混じり気のない優しさを持っています。それでも民族の上に立つ者として、時に己の感情を切り捨て、同胞のために行動します。それは一見非情とも思えますが、どこか祈りのような一途さや健気さを見るような思いがして、目が離せなくなってきます。
「お前には、判らないだろう。俺達の憎しみの溝が、どれほど深いのか。――言葉で理解し合えるなら、追い詰め合うことはなかった。既に、話し合う段階は過ぎている。殺さねば、殺される。滅亡を避ける為には、力で溝を潰すしかない」
作中の言葉に、胸が痛みました。民族に対する強い覚悟と誇りを持って生きる彼を見ていると、彼らが皆同じ土地、同じ文化で生まれ育っていたなら……と思わずにはいられません。
鳥の名を持つ主人公たちはこの世界に何をもたらすのか。この物語がどのような結末を迎えるのか。それぞれにとっての幸せが実現されることを願ってやみません。
人の心の複雑さ、もがき苦しむ葛藤の中に光る何かを見出すような――とても読み応えのある、奥深い物語です。
長く果てしない物語の壮大さに魅了され、人間の強さに心打たれた。
かつてのアジア諸国の興亡史と、そこに息づく神話と因習に、微量のSF感を織り交ぜて紡がれた、重厚なファンタジーだ。騎馬民族を思わせる純朴だが荒々しい『古き民』の息遣いを間近に感じ、彼らと共に生き、旅をする……そんな感覚を味わいながら、彼らが選んだ生き方に涙し、深い愛情に心を揺さぶられる。
大自然に生きる過酷さと、争乱の世の残酷さを容赦なく描き出す作者さまの力量の前に、都合よく書き立てられた昨今の『異世界ファンタジー』など霞んで見える。膨大な知識を元に綿密に創り上げられた世界観が、真実味を帯びて心に迫る。そんな世界で必死に生きる人々の、ひたすらに誰かを想い続ける細やかな心理描写は、圧巻の一言に尽きる。
「残酷描写有り」のセルフレイティングがあるため、読むのを躊躇される方がいるかもしれないが、エピソードの冒頭に「R15の戦闘シーン」などの注意を促すコメントが付けられている。作者さまの優しい心遣いだ。その部分を読み飛ばしてでも、話を追って頂きたい。
辛く悲しい別れや理不尽な運命に苦しむ登場人物の姿が余りにも切なくて、胸を痛めることも多い。それでも、小さな希望の光が見え隠れしている。だからこそ、どんどん読み進めてしまう。
長い旅路の果ての未来に、必ずや救いがあることを信じて、これからも彼らと共に旅を続けよう。
雄大な環境にも関わらず、争いが身近で落ち着かない世界で生きる主人公等。
彼らは各々の理想を求め、艱苦に耐え、苦難を越え、成長していく。
目的のためにストイックに生きるのではなく、温もりや愛情を感じ、そして与え、人としての有り様を素直に生きている。
そこに作品世界のリアリティが感じられ、登場人物に心情は寄り添っていく。
また、中央アジアという、ある種の開放感と素朴さへの憧れを感じさせる世界に生きる民族独特な感覚や情景が作品内にはちりばめられ、作品世界への視野を狭められたり広げられたりという感覚を味あわせてくれる。ここに作者さんの知識の豊富さと感覚のみずみずしさを感じ、中央アジアに凡庸な知識しかもたない私は振り回され、その感覚を楽しませていただいている。
旅行記ではないのに、旅の途中で見かけた人達をずっと追いかけているような気分。
そんな感じを味あわせてくれる作品です。
長編だが、全くそれを感じさせない面白さがある。特に、「民族」好きにはたまらない一作となっている。
主に、鳥の名を冠する構成員たちの物語であるが、それぞれの部族や国などに、魅力的なキャラクターが存在する。鳥の名を冠するリーダー格の鷲や、姉御肌の隼、その隼に好意を抱く知的な雉、愛らしい鳩。彼らはマレビト的な存在だった。そんな彼らに、記憶喪失の少女・「鷹」が加わったことから、物語は動き出す。鷹の記憶を求め、山に住まう天人に出会い、行動を共にしていた彼らだったが、そこでも鷹の記憶は戻らなかった。
そして彼らは、広大な草原を舞台とする大きな戦火に巻き込まれていく。各部族の族長、国の将軍、そして新たなる出会い。しかしそこは戦場。陰謀と策略、裏切りや嘘が渦を巻き、複雑で重厚な人間関係が変化しながらも構築されていく。
そんな状況の中、隼は新しく王となる青年と恋に落ちる。雉は身を引くが、青年の体を、異変が襲い……?
さらに、鷹の記憶が戻るが、「鷹」としてこれまで皆と歩んできた記憶を全て無くしてしまう。しかも「鷹」のお腹の中には、鷲との子供が宿っていた。戦火の中でも、新たな命は生まれくる。そして「鷹」は意を決することになるのだが……。
入念に、丹念に調べ尽くされた人々の伝統、言葉、信仰、衣食住。そして気候や風土、自然環境や地理。料理シーンや馬の描写も見どころ。
恋愛の部分は胸を締め付けられ、戦の部分では胸が躍る。
――神はいないのかもしれない。
――しかし戦場は、人を神にも英雄にも変えてしまう。
今後の展開に期待大!
是非、是非、御一読下さい!