原宿ガール

カレーたまご

第1話 日曜日は原宿でハンバーガーを食べよう



四月上旬、日曜日の朝、毎週予約録画している鼎談番組を見ようとテレビを点けた。液晶の画面左側に「JR山手線不通」と表示されている。


不通?これからJR総武線で新宿に出て山手線に乗り換えて原宿に行ってハンバーガーを食べて渋谷まで歩いて陶芸の個展を見に行く予定だった。


まぁ、気にすることない。すぐに復旧して電車は動き出すだろう。


前回好評だったサッカー有名人の今回は後半の鼎談を見た。四十八歳現役選手である三浦知良の求愛物語だったり引退は未定のサッカーへの情熱だったりこれからの日本サッカーの行方だったり、中田、前園、三浦の三名を覆う鼎談空間が心地よかった。


録画を見終えると午前八時を回った。依然JR山手線は不通のママだ。


ヤレヤレ。大都会東京といったって電車一つ動かないだけでこの不可能な空気は一体全体どうなんだ?


天気はあり得ないほどの快晴で日曜日は始まったばかりなのに。


それでも一部折り返し運転が始まり、新宿ー原宿の区間は運行再開となった。


予定通り午前十一時に電車に乗って原宿へ向かった。事故の影響なのか、車内は空いていた。


原宿に着いた。駅を出て表参道の坂を下りている時だった。


「パンケーキのお店だよ、怪しくないよ〜」


呼び込みの声がした。若い男の店員が少女たちに呼びかける。


「怪しくないよ」このフレーズが気になった。何が「怪しくないよ」なのか?ここは原宿だからか。呼び込みになれていない少女達をやさしく懐柔する癒しのキャッチコピーなのだろうか。それとも単に声を掛けた美少女に怪訝そうな顔でもされて当意即妙にそんなフレーズが「安心していいから」という感じで自然に口から出たのか。


いい天気だ。暑いくらい。ぶらぶら気儘な日曜日である。新宿でも渋谷でも銀座でもない。ここ原宿はメルヘンな雰囲気がある。少女チックな乙女テイスト?中学生や高校生も沢山群れなしてあるく。外国人もかなりの人数だ。オリンピック効果もあるのかな。円安効果は当然あるだろう。為替は海外旅行にとって重要な要因だ。現政権が行うアベノミックスに感謝しないとね。ありがとう、安倍総理!異次元な金融緩和のお陰もあるけど。


もう新学期・新学年が始まっている。新たに高校や大学に入学した連中も最初の週末である。もう都内のサクラは散った。


山手線が不可解な事故で全線不通になって一部折り返し運転中である。全面復旧はまだ目処は立っていない。だからか原宿はごった返すような人混みでもない。


春爛漫から初夏へ走り出した季節の中で少女達の街をしばし観察してみよう。時間はたっぷりある。のんびりした日曜である。


目を惹くのは中高校生の女子たちだった。新鮮且つ清潔な思春真っ只中。密かに彼氏つくって抜け駆け前の青い蕾の処女達の群れである。それでもちゃっかりお色気に目覚める彼女たちならではのファッションが初々しくもバージンのセクシーさもある。


おや?前を歩く髪の長いガールの脚線も長くてスレンダーである。しかも薄墨透明なパンストが可憐にも華奢な股の付け根に食い込むブルゾンの短すぎる裾でパンティラインよりも斬り上がっている。


もしかしてノーパンティ?のエロさが露わである。見えそうで見えないそんな焦燥の期待と憧憬の落胆の波間のアップ安堵ダウン。不埒な波状のリズムが興奮を掻き立てそそる。


どんな顔したガールなのかな。振り返って階段を下りていく彼女のカンバセは緊張していたがとても幼い。隣の母親もまだ三十代?いや姉妹のようだ。素敵な親子?


明治通りから路地に入ってクネクネ歩いた。普通に路地へ入っていく。居住区のような閑静な空間である。ありふれて住宅が林立する。数人の少女たちの群れのあとについて店先で列に連なった。


やって来たのはハンバーガーショップだ。ザ・グレートハンバーガー。ネットによれば人気店だ。十一時半開店。まだ三十分ほど時間がある。


列のすぐ後ろにグループがいた。目を惹く美人の少女を見つける。黒々としたロングヘアに黒い膝上スカートの出で立ち。しゃがんでおしゃべりするとき正面から彼女のスカートの中が見えた気がした。長くは凝視できない。背徳の秘めた負い目で健気なエロスをはっきりとは確認できない。お友達とおしゃべりに夢中になっているうちに、うっかり彼女のスカートの中からエロスのセレナーデーが飛びたった。彼女とて天使の可愛さであった。


午前十一時半を過ぎた。開店である。僕らは一番乗りだ。案内されて店内にはいると一番奥の席に通された。列車旅の特急自由席の席にやっと座ってほっとする感じだった。


店内を忙しく動く店員をチェックする。いたのである。僕好みの女の子が。清冽にクールな美人。色白で中学生の女子のような段カットヘアのガールである。化粧が濃い。色白なのに一段と白くした顔に真っ赤な口紅が生々しく半乾きの光沢が不安げに怪しげで艶めかしい。しかも白の無地のTシャツそして青色の膝上スカート。どこかで見たこと有る。あいつだ。そうあの晶子だね。あのスカートは。どうしてるかな?あの女。晶子とくれば静も連想してしまう。悪辣な女たち..。


ハンバーガー一個千五百円也。マクドナルドは一個百円という時期があったけど十倍以上も高いグレートなハンバーガーのようだ。


フライドポテトは貧相極まりない。モスのポテト太切りの塩塗れながら熱々とも違うし、マクドの牛脂まみれでもない。


でも生ビールが美味しい。こんなよく晴れた日曜は昼間から飲んでもいい筈だ。原宿。ここは大都会の小さな観光地だ。行楽地でビール、飲まないわけにはいかない。


五十席ほどある店内は意外にゆったりとした間隔である。韓国少女のような華奢な店員は忙しそうに動いていた。Tシャツ姿のアクセントがつき易い胸元なのに乳房のボリュームはこの店のハンバーガーほどもない。顔に白粉のような化粧をして唇にハットする真っ赤な口紅はどういう心理状態なんだろう。「怪しくないよ」というより「大丈夫〜」とでも言い聞かせるのがいいだろう。そんな原宿のムードが彼女をらしくさせているのだから。 (了)

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