人様の人生を追体験する、その喜びと重みについて考えさせられる作品

 読書の醍醐味のひとつに、活字を通して自分とは違う人生を疑似体験できるというのがあると思います。主人公の生きてきた日々に寄り添うことで、今まで見えてなかったものが見えてきたり、知らなかったことを知る機会を得たりするのです。
 この作品は自伝ですので、主人公は作者の龍神さん御自身。
 正直に書きますね。紹介文を読んで龍神さんの置かれた過酷な状況を知り、また、作品の最初の方に出てきた「親父に殴られながら育てられた」などの記述を目にしたことで、私は勝手にかわいそうで悲しい物語をイメージしていたような気がします。
 ごめんなさい。読み始めてすぐに私は私のなかの偏見に気づかされました。龍神さんはたくさんの辛い思いやご苦労もなさっているのですが、小説から放たれるエネルギーはとても強い。色にたとえるなら、赤。それも黄金混じりの赤です。

『自分の中に本当の敵がいるのだ。死ぬまで自分と闘うのだ』

 作中に出てきた一文に、龍神さんの、自身の弱いところを呑み込んでなお、前へ進もうとする強い心が出ていると思います。

 この自伝、これから社会に出て行こうとする若い人たちにも読んでほしいな。働くということや、自分の足で自分の日々を生きていくということや……。大切なことを考えるきっかけを、きっとくれるはずです。

 最後に━━龍神さんの筆力により、本当に読みやすい文章ですよ。


 

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