働かなくても暮らしていける夢のような生活の対価を、如何にして支払うのか

好きな時間に寝て起きて、朝から晩までしたいことだけして、欲しいものは全部タダで手に入る。
誰もが一度は思い描いたことがあるであろう、夢のような生活。
しかし実際その状況になったら、人はマトモでいられるのか? それを追体験できる作品です。

記憶喪失の主人公・律歌は、半同居人の北寺と共にこの夢の楽園でまったり暮らしながら、あちこち探検をします。
マウンテンバイクで走って地図を作り、トラックで山を越え——
そこで気付くのです。
この場所から出られない、ということに。

ここは一体どこなのか?
なぜ記憶がないのか?
天蔵とは何なのか?

それらの謎が紐解けた時、きっとあなたも目の覚めた思いがすることでしょう。
これは、夢なんかじゃない。
近い将来起きるかも知れない、いや、既に起きつつある、紛うことなき現実の問題なのだ、と。

働き過ぎはいけません。
でも、全然働かないのもいけません。
個人的に印象に残ったのは、前半の途中にあった、住民全員が力を合わせて石油からガソリンを作ろうと頑張るシーン。
純粋な「働く喜び」の一つの形が、あのシーンに暗喩されているように感じました。

とても面白かったです。
余談ですが、同作者さまの『四次元の箱庭』を既読の方には、ちょっと嬉しいシーンがあるかも。

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