モラトリアム

 駅と駅を結ぶ地下道にあるミスターミニット。月曜の朝七時には背の低い小太りのおじさんがいて、靴の修理を頼むとふわふわのスリッパを差し出して椅子で待つように言ってくれる。

 どこへも行けない時間を過ごすおれの前を、スーツを着たひとたちが群れをなして通り過ぎる。前だけを見据えて一方向に。歩くのが速くてくらくらする。比べておれは童話のお姫さまのようじゃあないか? 壊れた靴をこびとに直してもらって、どこへでも……。

 優越感と焦燥感は紙一重だ。

 財布にたまった次回五%オフクーポンは捨てよう、新しい靴を買おう。靴擦れを恐れてはならない、いずれ慣れるのだから。痛いほどわかっちゃいるのに、おれはここへ戻ってきてしまう。


2017/4/7 #Twitter300字ss(@Tw300ss)


第四十一回 お題『新しい』

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