若菜摘む

「ヒメジョオンは甘いけど、喉の奥がこしょこしょする。オドリコソウはぷちぷちつまんで食べるのがいい。でもいちばん好きなのはスミレだなあ。ほんのり苦くてシロップみたいに溶けるんだ」

 野原で摘んできた花々を新聞紙の上に広げて、彼は講釈を垂れる。食べるものが少なくなる冬のために、下ゆでをして冷凍保存をするのだ。あっというまに冷凍室は春の花が詰まった袋でいっぱいになった。ひとりで暮らしていたころ、ここには空っぽの冬しかなかったのに。

「おれには草の味しかしないんだろうな」

「試してみる?」

 開いた口から、ひなたの草のみずみずしいにおい。

 彼のなかに息づく青いぬくもりを受け取って、おれのなかにも春風が吹く。

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